【障害受容】わが子は発達障害?すぐ受け入れるべき?
私は息子が自閉症と診断されたとき安心したのですが、その後受け入れられない日々が数年続きました。他の人はいつ前向きになれた?そんな障害受容の疑問点について、講習会で聞いたことや調べたことをまとめてみました。
今回は、自閉スペクトラム症児の障害受容を中心にみていきます。
最初の反応:極度のショック状態
「愛しいわが子が発達障害かもしれない…」そんなことが頭をよぎり始めた瞬間、または「発達障害です」「自閉症スペクトラムです」の診断されたとき。
親としては血の気が引いてドキドキしてクラクラして気持ち悪くなって…。そんな経験を私もしたことがあります。
このような反応は、「ショック」「極度の精神的混乱」の状態と言われ、障害受容の第一段階として、みな経験する反応とされています。
親としてすぐに受け入れるべき?
親としてはすぐに受け入れ、前を向き、積極的に行動することが正解なのでしょうか?
そんなことはありません。
自閉スペクトラム症児の場合、親は診断によって安堵、納得することは多々ありますが、そのような「障害認知」と「障害受容」とは異なります。
障害種別により、衝撃度や期間は違うのですが(◆参考◆自閉症とダウン症では受容の過程が違う)、多くの先行研究によって、ショックの後には必ず否認や悲しみ、怒りなどの気持ちを経験することが分かっています。1)
精神分析学的には、その時期に無理をすることは結果的に逆効果になると言われています。詳しくはこちらで解説しています。
受け入れるのって難しい
どんな障害だって
親はわが子の障害について、診断後すぐに受け入れられるものではありません。「期待した子の死」と表現されるほどです。2)
長い時間がかかる
専門家は、親は子どもの障害を告知された際、その精神的衝撃と悲哀の回復には一定の期間が必要と述べています。3)(立正大学心理学部 中田洋二郎名誉教授:発達障害と家族支援について長く研究)
悲哀の時期をじっくり向き合えた後に、はじめて、価値観に変化が生じるような心情の変化を経験していけるのです。
自閉症の受容は、より難しい
ダウン症候群などに比べると、自閉症スペクトラムや知的障害の場合、親はわが子の障害を受け入れにくいと言われています。詳しくは下記ページにまとめています。
障害を受容するということ
最終的に「障害受容をする」ということは、具体的にはどんな状態を言うのでしょうか?下記ページで詳しく説明しています。
肯定的な気持ちになれる日
多くの先行研究から、一定の期間が経つと少しづつ心情の変化が起き、肯定的な気持ちになれる日がくることが明らかになっています。人が大切な人や物の死/喪失をもいつか乗り越え生きていくことと似た流れのようにです。
必要なこと
前を向くために必要なことについては、下記ページにまとめています。ご参考になれば幸いです。
いつ頃?
肯定的な気持ちになれる日がいつ頃来るものなのか、論文からの実例をまとめました。だいたい皆さん似た頃でした。
時にまた落ち込むこともある
親は、子どもの障害についての肯定的な気持ちと否定する気持ちが常にあって、交互に現われるものです。(障害受容の「螺旋形(らせんけい)モデル」1995年 中田洋二郎)
子どもが自閉症スペクトラムや知的障害の場合は特に、親は障害を認め受け入れたと思った時期でも、何かあると悲哀が呼び覚まされ、また障害を受け入れてない頃に戻ることもあります。4)
期待と落胆を繰り返すという例を中田教授があげていたので、参考として紹介します。
- 11歳 自閉症 男児(中度)の親
- ショックはその都度あって、期待やあきらめの両方があると思う。
- 今ももしかしてという期待もあるし、普通に追いつかないこともあるんだというあきらめの部分がある。
- 今だって悲しい気持ちや落ち込むけれどその波がだんだん緩やかになっている感じかと思う
- 12歳 知的障害・自閉症 女児(中度)の親
- 成長の節々で結局は落ちこぼれの方を選ばざるをえず、だんだん覚悟ができてきた。
- 発達はするが普通にはなれないということを受け入れるのは難しい。
- ショックを受け泣きながら立ち直る繰り返しかと思う
- ※「慢性的悲哀」に近い概念のようです。
障害受容モデル
障害受容に至るまでの心情変化は多くの先行研究でも取り上げられ、いくつかの仮説が成り立っています。有名なモデルについて、下記ページにまとめています。
知的障害の有無でも異なる
障害についての親の受け止め方は、近年の発達障害への認識の高まりにより、知的障害の有無によっても変わってきています。
知的障害がある場合「慢性的悲哀」
知的障害児の障害受容については、かなり古くから研究されており、「慢性的悲哀説」が有名なモデルになっています。
知的障害がない場合「個性として」
知的障害がない発達障害については、現代では「障害」と「個性」の併存、表裏一体という認識が強いようです。
2007年の調査では、思春期以降の子どもを持つ5人の母親は、子どもの障害は外に出ると認識させられ、社会との関係で生まれるものだと語っています。5)
障害を受容するか否か
中田教授は、障害を受け入れるかどうか自体、その人の主体性に委ねるべきことだとしています。
子どもの障害を認めることが困難な家族においては,慢性的悲哀は子どもの障害の否認として専門家には受け止められる。しかし,親が障害をはじめて知った時に生じる否認と同じように,それを自然な反応として考えるべきである。」
中田洋二郎(1995)
結論としては,障害受容というのは本来個人的体験であって,障害を受容するか否かは個人の主体性に委ねるべき問題だろうということです。
※「主体性」とは、自分の考えによって取るべき行動を選択するだけではなく、自らの行動がもたらす結果にも責任を負うことができる、という意味を持っています。参考:オフィスのギモン
さいごに
子どもの障害を頭がよぎった頃や確定診断された頃は、すぐに受け入れ前を向けなくて当たり前であることが分かりました。
辛い日が続いても、親失格でもなければ、病気でもありません。人として当然の反応であることが、多くの先行研究で解明されているので、安心してほしいです。
そのような親御さんのためにも、日本では児童発達支援(=療育)の中に「家族の支援」も含まれています。
また、療育といわれるものも、子どもを変える・治すというものではありません。あくまで、二次障害を起こさないようにしてあげるための支援です。早く始めたから障害の程度が軽くなるというものではありません。愛しいわが子を、その子らしく生きられるように親が学ぶ場です。
なので焦る必要はありません。ゆっくりご自身とお子さんと向き合う時間を取ってくださいね。
今回も最後まで読んで下さって、ありがとうございました!
参考・引用情報
1)
他児との違いや困難さを指摘された保護者は戸惑い、悲しみ、怒りの経過を経て、時間をかけて「受け留める」ことができるようになっていく。
根岸由紀,葉石光一,細渕富夫(2014)「特別な支援を要する子どもを持つ保護者の気づきに関する研究」埼玉大学紀要 教育学部 63(2), p.49-59
人は、障害が残ることになった時、まず衝撃に対して心理的に緩衝しようとして、障害の否認を行います。
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「障害の受容過程」更新日:2019年5月29日
2) 期待した子どもの死
フロイトの「対象喪失」や、ボウルビーの「愛着理論」という考えから派生しています。それらの考えでは、かけがえのないものを失っても、きちんと嘆き悲しむことができたなら現実検討力が回復して、時間と共に心が整理されていく(喪の作業mourning work)という心理過程も含まれます。
参照:"Mourning and the Birth of a Defective Child“, Albert J. Solnit ,M.D. & Mary H. Stark, M.S.S. The Psychoanalytic Study of the Child, Volume 16, 1961 – Issue 1, Pp. 523-537
親は子供を授かったとき、元気な子が生まれてくることを誰もが期待します。だからこそ、生まれてきた子に重い障害があったそのとき、親が直面するのは「期待した子供の死」であるのです。
松永正訓「“期待した子の死"に悩む障害児の親の半生 最初はだれもが「障害」を否定する」PRESIDENT Online
SolinitとStark (1961)ら(中略)の説はFreudの理論を障害受容の過程へ単にひき写したものであるが、障害児が誕生することを親にとっての「期待した子どもの死」と見なしたことに特徴があった。(中略)
中田洋二郎(1995)障害保健福祉研究情報システム(DINF)「親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀」早稲田心理学年報第27号 p.83-92
過去の愛着の対象(理想の子ども)の喪が完成してはじめて現実の子(障害を持つわが子)との関係が形成されるという考え
3)
障害告知は保護者に精神的衝撃と悲哀を与え,その回復には一定の期間が必要である。
中田洋二郎 (1995)
保護者が子どもの障害を受け入れることで支援は始まりますが、最初の1歩に踏み出すまでに時間がかかるのも自然なことです。
深谷はばたき特別支援学校「はばたきインクル支援だより No.14」令和元年11月1日
4)
回復し表面では適応していても,悲哀が常に内面にあり,状況によって再燃する。
中田洋二郎(1995)
5) 古屋 健, 中田 洋二郎(2018)「発達障害の家族支援における「障害受容」― その概念の変遷を巡って ―」日本応用心理学会第 84 回大会 特別講演, 応用心理学研究 44巻 2号 p.137