ワクチンによって【自閉症】が発症するのか?|関連性・解明は?

ワクチンで自閉症は発症する?

自閉症への不安から、ワクチン接種(予防接種)を控える親が、世界中にたくさんいます。

それはなぜでしょう?彼らの行動を見ると、子を持つ親ならば「予防接種のせいで、自閉症が発症する可能性は0ではないということ!?」と不安になります。

今回は、予防接種では自閉症が発症するという報告は本当なのか?科学的にどのように解明されているのか?という疑問を、順を追って見ていきましょう。

なぜ【予防接種】で自閉症?

予防接種と自閉症の原因の因果関係が話題になったのは、下記の経緯が主なものです。

1.MMR接種後に自閉症になったという論文報告

最初に予防接種と自閉症の関連性が話題に上ったのは、1998年のイギリス人医師による論文報告です。

「三種混合ワクチン(※)接種が、自閉症の原因に現実的な関連性がある」と結論付けた論文が、世界で最も有名な医学雑誌のランセット(The Lancet)に掲載され、世界的に大きな反響を呼びました。

詳しくは、後の章「【参考】MMRワクチンが自閉症の原因になるという論文について」で説明しています。

※三種混合ワクチン…MMR(はしか・風しん・おたふく)ワクチン

2.ワクチン中の有機水銀のせいなのでは?

その後、予防接種の様々なワクチンに防腐剤として含まれているチメロサール(有機水銀)が、自閉症の原因になるのではないかとアメリカで話題になり、現在でも一部の人はその意見を主張しています。

神経疾患と水銀

皆さんも水銀が体に悪いことはご存知ですよね。

日本では、1956年に熊本県水俣市の工業から有機水銀が海中へ排出され、水俣病が発生してしまいました。水俣病は、メチル水銀化合物(有機水銀)による中毒性中枢神経系疾患なのです。

日本以外では農薬に使用され、地球規模でみると、川や湖、海に存在している化学物質です。

食物連鎖により、人が魚を食べることで摂取し、健康被害に繋がる恐れがあります。日本やイラクでは死者も出ました。

その影響は、特に神経系統がつくられる胎児には、悪い影響がもたらされます。そのため、WHOはメチル水銀の安全基準を設けており、特に妊婦さんは厳しく制限されています。

このように、神経疾患有機水銀は、以前から関連性が明確になっているものなのです。

ワクチンに含まれるチメロサールは、同じ有機水銀ではあっても、水俣病の原因となるメチル水銀とは異なります

しかし、1999年にアメリカにおいて食品と薬物における水銀含有レビューが義務付けられ、その後、米国小児科学会(AAP)と疾病管理予防センター(CDC)がその対応のため、ワクチンからチメロサールを除去するよう通達したことで、人々は不安に駆れました。

自閉症の遷移とチメロサールの歴史は、時系列にすると関連性があるようなものだったので、論争にまで発展しました。

  • 自閉症の遷移
    • 自閉症は1945年にアメリカで初報告され、自閉症人口が年々増加している
  • チメロサールの使用歴
    • 1930年頃からワクチンや目薬の防腐剤として使用が開始され、2002年には、アメリカとヨーロッパにおいて、チメロサールが含まれるほとんどのワクチンが廃止された

この論争については、科学的な証拠はありませんでしたが、アメリカではワクチンへの毒性の疑いから損害賠償を求める何千もの訴訟が行われたほどです。

3.早期に大量のワクチンを接種しすぎなのでは?

アメリカでは、上記のような情報もある中で、生後直後から早期に大量接種するワクチンが自閉症の原因になるとも考えられました。

nearly 1 in 10 parents refuse or delay vaccinations because they believe it is safer than following the Centers for Disease Control and Prevention’s (CDC) schedule

THE JOURNAL OF PEDIATRICS “The Risk of Autism Is Not Increased by “Too Many Vaccines Too Soon" March 29, 2013
↑ 和訳概要

10人に1人近くの両親は、米国疾病予防管理センター(CDC)のスケジュールに従うよりも安全であると考えているため、予防接種を拒否または延期しています。

科学的な【結論】は?

1.MMR接種

詳しくは、後の章「【参考】MMRワクチンが自閉症の原因になるという論文について」で説明していますが、MMR接種後に自閉症になったという論文報告は、金銭目的の虚偽の論文であったと2010年に認められました。

日本では、該当するワクチンは「新三種混合ワクチン」と呼ばれ、論文が発表される5年前の1993年に、別の理由で既にその予防接種は中止されていました。その理由は、おたふくのワクチンに含まれる成分において、無菌性髄膜炎が1000人以上発生したためです。

2006年からは、現在も定期予防接種の1つである「MR」という麻しん・風しん混合ワクチンに切り替わりました。

ちなみに、現在日本で「三種混合ワクチン」と呼ばれるものは、ジフテリア、百日咳、破傷風のDPTワクチンを指すので、混乱しないよう注意してください。(DPTワクチンは、2012年からは、ポリオワクチンが加えられた「四種混合ワクチン(DPT-IPV)」として接種されています。)参考:Wikipedia「三種混合ワクチン」「四種混合ワクチン

2.チメロサール

チメロサールは多くの研究から、自閉症の原因にはならないと明確になっています。

Conclusions: Rigorous scientific studies have not identified links between autism and either thimerosal-containing vaccine or the measles, mumps, and rubella vaccine.

J Spec Pediatr Nurs. 2009 Jul;14(3):166-72. “Autism and vaccination-the current evidence" Lisa Miller, Joni Reynolds
↑ 和訳概要

結論:厳密な科学的研究では、自閉症とチメロサール含有ワクチン、または、MMR(はしか、おたふく、風しん)ワクチンとの関連性は確認されていません。

3.早期の大量ワクチン

アメリカの小児科ジャーナルでは、ワクチンが多すぎることによって、自閉スペクトラム症のリスクが高くなることはない、と研究から結論付けています。

prenatal and early-life exposure to ethylmercury from thimerosal-containing vaccines and immunoglobulin preparations was not related to increased risk of ASDs.

Pediatrics.?2010 Oct;126(4):656-64. “Prenatal and infant exposure to thimerosal from vaccines and immunoglobulins and risk of autism" Cristofer S Price et al.?
↑ 和訳概要

(自閉症と生後2年間に投与されたワクチンから受けた免疫学的刺激のレベルとの関連を評価する研究において、)生後2年間のワクチン中の抗体刺激タンパク質および多糖類への曝露の増加は、自閉スペクトラム症(ASD)を発症するリスクとは関連していませんでした。

ワクチンへの【不安】と【反対運動】

ワクチンが自閉症の原因になるという不安は、決して特別なものではありません。

たとえば、アフリカのナイジェリアでは、ポリオワクチンが不妊症やエイズの原因に、フランス語圏の人々の間では、ある予防接種が多発性硬化症の原因になると恐れています。

そして、もともとワクチン接種には、反対運動がつきものです。運動家の理由は様々です。

  • 副作用に恐怖を抱く人
  • 副作用を理由に損害賠償を巻き上げたい人
  • 予防接種対象の病気がなくなると、今まで得ていた利益を失う人
  • 宗教的問題
  • 純粋な人を恐怖におとしめたい悪い人 など

そのためか、誇張された虚偽の情報も出回るため、不安が尽きることはありません。

アメリカでは、自閉症の息子をもつ俳優のロバート・デ・ニーロさんが、2016年に自閉症とワクチンの関連性について言及し、話題になりました。デニーロさんは、自分はその時は分からなかったが、奥さんは、息子さんがMMRワクチンを接種した翌日から変わってしまったと言っている、ともおっしゃっていました。

“I am not anti-vaccine. I want safe vaccines. […] There is a link and they say there isn’t. The obvious one is thimerosal which is a mercury based preservative. I am not a scientist. But I know. Let’s just find out the truth,” De Niro said.

De Niro says 'find the truth’ on vaccines: But scientists already did" April 14, 2016, 3:26 AM JST / Updated April 16, 2016, 3:01 AM JST / Source: TODAY By Maggie Fox
↑ 和訳概要

「私はワクチン反対主義者ではありません。 安全なワクチンが欲しいのです。 […] 関連はあるのに、関連はないと言われている。 明らかなものは、水銀ベースの防腐剤であるチメロサールです。 私は科学者ではありません。 でも私は知ってる。 真実を調べましょう」とデニーロは語った。

また、トランプ元大統領も選挙中から、予防接種を受けたせいで健康な子どもが自閉症になったと何度もツイートしています。

このように有名人や著名人など影響力がある人々がそのようなことを言う限り、不安は尽きないものです。

【参考】MMRワクチンが自閉症の原因になるという論文について

自閉症とワクチン予防接種の関連性

はじまり:ある医師による論文発表

1998年に「三種混合(MMR:麻しん・風しん・おたふく)ワクチン接種は、自閉症の原因になる」とイギリス人医師が論文で報告しました。

論文を報告したのは、創立170年を迎えるイギリスのロイヤルフリー病院(Royal Free Hospital)の医学部で上級講師・上級医師を務めていたアンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Jeremy Wakefield)です。

アンドリューウェイクフィールド
画像はWikipediaより

その論文は、世界で最も有名な医学雑誌のランセット(The Lancet)に掲載され、世界的に大きな反響を呼びました。

彼は、腸の炎症性疾患であるクローン病と、はしかの関連性の研究や論文報告を行っていました。2年の研究の末、ウェイクフィールドらは1995年に「はしかの予防接種・はしかウィルスがクローン病の危険因子となる可能性が高い」と結論付けた論文を発表しました。参考:THE LANCET “Is measles vaccination a risk factor for inflammatory bowel disease?" VOLUME 345, ISSUE 8957, P1071-1074, APRIL 29, 1995, N.P Thompson, MRCP, Prof R.E Pounder, DSc, A.J Wakefield, FRCS, S.M Montgomery, BSc

そんな研究を行っている中、腸疾患とアレルギーがある自閉症男児のお母さんから助けを求められ「はしかの予防接種と自閉症との関連性」についても研究するようになったのです。最初は正常な発達を示していたのにも関わらず、下痢や腹痛と共に習得したスキルを消失し、ロイヤルフリー病院小児消化器科に受診した3~12歳の12人の子供について研究しました。

そしてウェイクフィールドらは、イギリスで1988年から導入された三種混合ワクチンの接種が、自閉症と大腸炎(自閉症性腸炎と名付けた)の原因に現実的な関連性があると結論付けた論文を、1998年に発表したのです。参考:THE LANCET “RETRACTED: Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children“, Wakefield A, Murch S, Anthony A; et al. VOLUME 351, ISSUE 9103, P637-641, FEBRUARY 28, 1998

論文の内容

自閉症に関わる検査結果は、下記です。

  • 12人全員が最初は正常な発達を示していた
  • 12人全員に腸の異常、行動障害が見られた
  • 行動障害は、9人が自閉症、1人が小児期崩壊性障害、2人がウイルス性またはワクチン接種後の脳炎の可能性から生じていた
  • 8人が三種混合ワクチン接種に関連
    • うち5人が、予防接種の初期の副作用(発疹や発熱、せん妄、3人はけいれん)を示していた
    • 三種混合の予防接種から、平均して6.3日(1?14日)で行動障害が出始めた
  • 1人がはしかに感染していた

世界的に影響

その論文の影響で、イギリスやアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでは、三種混合ワクチンの接種をさせない親が激増し、はしかに感染する子供が非常に増えてしまいました。

特に、イギリスでは数年にわたって激しい論争を巻き起こしました。2001年~2002年に論争のピークに達し、当時に首相であったブレア首相の2000年に誕生した第4子レオ・ブレア君が、三種混合ワクチンを接種したのか非常に注目されたほどでした。レオ君の接種については、プライバシーの関連から公表されませんでした。

大規模な疫学研究が行われた

複数の研究から、徐々に三種混合ワクチンと自閉症、炎症性腸疾患との間に関連性がないという研究が集まってきました。

ウェイクフィールドのスキャンダルが発覚

そのような渦中、上記ウェイクフィールドの論文は、詐欺であった、というスキャンダルが報じられました。その報道は、2004年2月、イギリス最大規模の新聞The Sunday Timesに最初に報じられました。

このことを調査・The Sunday Timesに掲載したのは、製薬をはじめ、医学、社会問題に関する有名な調査報道記者であるブライアン・ディア(Brian Deer)でした。

ブライアン・ディア
画像はWikipediaより

スキャンダルの内容は、その論文は、科学的な正確性はなく、訴訟に勝つために作られた論文だった、というものです。

詳細はこうです。

ウェイクフィールドは、1996年に、小児ワクチンの集団訴訟を考えていたリチャード・バー(Richard Barr)弁護士に時給150ポンド(約21,000円)で雇われました。英国政府の財政支援組織である法律扶助委員会から資金をもらうため、三種混合ワクチンに対して訴訟を起こすための証拠となる研究・発表を行ってほしいというものでした。

そこでウェイクフィールドは、6週間という短い期間で意図的に偏った12人の患者を選択し、患者データを操作し、結果を改ざんするなど、いくつもの倫理規定を破り、求められた訴訟の証拠としての論文を作成・発表しました。

それにより、バー弁護士は、目的の通り巨額を手にできたのです。金額は初期段階で55,000ポンド(約800万円)であり、利益相反ととられる行為が複数行われたのです。

このことは、新聞の報道から9ヶ月後の2004年11月に、イギリスの公共テレビ局 Channel 4 で、ディア氏のテレビドキュメンタリーでも放送されました。

ウェイクフィールドは、ディア氏に名誉毀損で訴訟を起こしましたが、後に取り下げ、ディア氏らへ諸々の費用を負担することになりました。

論文を載せた雑誌社が、論文の一部撤回

2004年2月の新聞報道があってからすぐに、ウェイクフィールドの問題となった論文をランセットに掲載した雑誌社は、その論文の一部撤回を発表しました。

論文中の患者が撤回を申し出た

論文で取り上げられた患者の12人のうちの10人の患者は、新聞報道の翌月の2004年3月に、ウェイクフィールドの問題となっている論文内容に対して、撤回を申し出ました。

数年にわたり、研究・検証が続いた

ディア氏の調査もさらに数年に渡り続けられました。

また、医学的にも他の研究者たちにより、別の研究も行われ続けました。

関連性はないとの結論

その結果、胃腸障害のある子どもたちの腸内の麻疹ウイルスRNAの存在に関して、自閉スペクトラム症の有無に関連性はありませんでした。そして、三種混合ワクチンと、胃・腸疾患、自閉スペクトラム症の発症は、関連性がないと結論付けられました参考:"Lack of Association between Measles Virus Vaccine and Autism with Enteropathy: A Case-Control Study" Mady Hornig et?al. (2008). PLOS ONE

2010年 医師免許の剥奪

2009年にはウェイクフィールドは報道苦情処理委員会に苦情を申し立てましたが、2006年からの長きに渡る調査の結果、イギリスの一般医療評議会(General Medical Council)は、ウェイクフィールドを「冷酷、非倫理的、不正直」と批判し、2010年5月に彼の医師免許を剥奪しました。参考:‘Callous, unethical and dishonest’: Dr Andrew Wakefield,  Brian Deer, The Sunday Times, 31 January 2010

決め手は、下記の内容からでした。

  • 不誠実、かつ、無責任に行動したこと
  • 彼の研究に携わった子たちを無情にも無視をして、不必要で侵襲的なテストをいくつも実施したこと
  • 自閉スペクトラム症児への虐待を含む不正行為と見なし、職業上の違法行為で有罪と認定した

また、ウェイクフィールドの論文が使用され、資金を不正に得るために行われた訴訟は、倫理委員会の承認もなく不適切な裁判だったことが判明しました。

ランセットから完全に撤回された

ランセットの編集者は、一般医療評議会の調査結果を受け、2010年2月には問題となったウェイクフィールドの論文を完全に撤回すると発表しました。

しかし、ウェイクフィールドは、今でもMMR予防接種と自閉症の関連性を主張しており、映画製作なども行っています。

汚名が付いたウェイクフィールドはテキサス州に引っ越し、反予防接種運動をアメリカでも起こした。なぜか弁護士のロバート・ケネディJr.、俳優のロバート・デ・ニーロなどの有名人もその運動に加担した。ドナルド・トランプ大統領も「健康な子供が予防接種を受けて、体調を崩し……自閉症に」などと、20回以上もツイートして陰謀説を広めた。結局アメリカの親もだまされ、予防接種率が下がったことで予想どおりの結果が起きた。20年前に撲滅したはずのはしかに今年は830人以上が感染している。ばかばかしいばかばかしい!

Newsweek 日本語版「感染広がる反ワクチン運動から子供を守れ(パックン)」2019年05月24日(金)17時20分 パックン(コラムニスト、タレント)

まとめ

今回は、予防接種と自閉症の関連性について見てきました。

今でも一部の親の間では、不安は残っているものの、多くの研究から、科学的に予防接種は自閉症・自閉スペクトラム症の発症とは関連性がないことが分かり安心しました。

この記事が、どなたかの安心材料になれば幸いです。読んで下さって、ありがとうございました!