ウィーン大学小児クリニックの治癒教育部門とは?

ウィーン大学病院治癒教育部門とは?

ウィーン大学小児クリニックの治癒教育部門とは、アスペルガー症候群の名前の由来ともなったアスペルガー医師が数年間責任者を務めていた病棟です。

当時は脳障害や行動障害のある子供たちの治癒センターなどはない中での設立で、とても画期的な病棟でした。

カナー医師よりも現代の自閉スペクトラム症に近い概念で自閉症研究をしていたアスペルガー医師の医師生活の土台となった場所であり、世界で初めて設立された治癒教育部門とはどんな場所だったかを見ていきます。

アスペルガー医師にとっての治癒教育部門

これから説明する治癒教育部門について、アスペルガー医師は好意的に影響を受けています。

アスペルガー医師
画像はBMCより

また、病棟の職員を「小規模の選ばれたグループ」と呼び賞賛しています。

1958年には「治癒教育部門での素晴らしい議論は私の存在の不可分の一部です」「私の科学的および個人的な運命を決定しました。」と語っています。

“The wonderful debates at the Curative Education department are an inextricable part of my being," he reminisced in 1958, and “decided my scientific and personal fate."

Edith Sheffer (2018) “Asperger’s Children: The Origins of Autism in Nazi Vienna"

治癒教育部門のはじまり

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門は、1911年にクレメンス・フォン・ピルケ(Clemens von Pirquet)教授が入院している子どもたちに教育する制度の導入を求めたことから始まり、小児精神医学を研究していたアーウィン・ラザール(Erwin Lazar)医師によって創立されましたました。参考:Austria-Forum ”Medizin im Zwielicht” 2014.4.5 https://austria-forum.org/af/Wissenssammlungen/Essays/Medizin/Autismus-Experte

ウィーン小児クリニックのスタッフ
ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門の医師たち(1921年)画像はWikimedia Commonsより

病棟

小児科と寄宿学校が併設している施設です。

ウィーン大学総合病院とは独立した建物で、天井の高い広々とした部屋、黒と白のチェックの床、風光明媚な壁の装飾が施された壮大な子供病院でした。

ウィーン大学小児クリニック入口
ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門 入口

対象児

当時は、脳障害・行動障害の子どもに加えて、遺尿・てんかん・言語障害・軽犯罪・性的暴力の被害者などの子どもと若者診断・治療に関する中心的機関でした。

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門

ラザール医師は当初、治癒教育部門には統合失調症(psychoses:精神病)などの古典的な精神疾患児の受け入れを想定していました。しかしそのような患者はめったに診断されず、大多数は「精神病質(psychopathy)」または精神的「不均衡」と診断する子でした。

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門

治癒教育部門に入院した患者のほとんどは外来で診察した患者で、毎年5000人が入院したとラザール医師は1925年に言及しています。

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
外来の着席エリアで待機中の患者たち

比較的少数の、複雑な症例や特別な臨床的関心の持てる患者は長期的に入院・治療を行いました。

画像はzeitheschichte onlineより

治癒教育概念

創立者のラザール医師の治療教育学概念は、小児科、教育学、心理学、および精神医学の知識から、個別の教育的治療法によって子供たちを「行動上の問題」から解放するというものでした。

診察する医師と看護師たち

そこは「知的だが習得が難しい子供たち」が「病院に住んでいるかのように」「自然な」生活を再現しようとしている部門でした。

当時のその他の診療所とは異なり、毎日の治療法は非常に柔軟で、共感的で、遊び心がありました。

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
水遊びをする子どもたちと笑顔で見守る医師たち

屋外で光を浴びながら過ごす時間も多く設けられていました。

ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
外にベッドを並べて
ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
看護師による読み聞かせ

スタッフは密接に協力して、毎週夕食時にテーブルを囲んでアイデアを交換しました。

入院時のスケジュール

  • 朝早く起き
  • 8:00に朝食
  • 9:00から10:00に運動
  • 10:30から12:00にレッスン(月曜日:数学、火曜日:読書、水曜日:正書法または作文、木曜日:地理または歴史、金曜日:自然、土曜日:手仕事または描画)
  • 12:00に昼食
  • 午後は自由時間
ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
朝のエクササイズ
ウィーン大学小児クリニック治癒教育部門
地理の授業風景
プレイエリアで遊ぶ子どもたちと見守るスタッフ

協力関係

医師と看護師、教育者、1920年代以降は心理学者も関り、青少年福祉事務所・少年裁判所・児童養護施設・学校・矯正教育施設などと密接な協力関係が築かれました。

オーストリア治癒教育の制度化

ここは世界で最初の脳障害・行動障害のある子供たちの臨床研究と治療のための治癒教育センター(小児科と寄宿学校が併設している施設)となりました。

ここをきっかけに治癒教育がオーストリアの小児科特別部門として制度化され、今では10を超える病院やクリニックにその部門を構えています。

現在のオーストリアでは公立学校制度の一部であり、11の特殊教育部門の1つとなっています。参考:Wikipedia “Wiener Heilstättenschule

今回はこの辺で。

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!