【参考資料】てんかんは治せる?|手術情報|分類表

てんかんは治せる?

一言で「てんかん」といっても様々なタイプがあり(後述のてんかんの分類参照)、治るものと難治のものがあります。

良性の小児てんかんは治る

「ローランドてんかん」とよばれるタイプの場合は、治ると言われています。そのため「良性小児てんかん」とも呼ばれています。

経過は良好で、ほとんどの患者さんで思春期以降に自然に発作も止まり脳波のてんかん性異常も消えます。通常は知能にも影響しませんが、一部の患者さんで行動の問題や軽度発達障害を合併することはあります。

一般社団法人 日本小児神経学会「Q19: ローランドてんかんは治るのでしょうか?」最終閲覧日:2022/5/6

このてんかんは、寝ているときや寝起きに短時間ピクピクガクガクとする程度の発作で、気が付かない人もいる程度のてんかんです。毎日のように起こるわけでもなく、数回しか発作を経験しない事も多いようです。

他も8割は薬物治療で治せる

良性小児てんかん以外でも、一部を除いて、てんかんは治せる病気と言われています。特に子どものてんかんは治りやすいようです。

いつくかの文献を読むと、てんかん専門医のもとで適切な薬物治療を行っていれば、7~8割は治せるというものがほとんどでした。

以前に、私達の病院で治療したすべての小児てんかん患者さんの長期経過を調査しましたが、8割の患者さんで発作は抑制され、そのうちの半数以上の患者さんで無事に薬を中止出来ていました。このことからも、根気よく治療するとてんかん、特に子どものてんかんはほとんどの場合治るといえます。

一般社団法人 日本小児神経学会「Q9:てんかんは治るのですか?」最終閲覧日:2022/5/6

難しいてんかんも

上記以外は、なかなか治りにくいてんかんとなります。

中には手術をすれば発作が止まる場合もありますが、ケースバイケースです。

手術については後述の「難治てんかんは手術で治せる?」の章で説明しますが、どの程度なら外科的治療の対象になるのかを理解するために、治りにくいてんかんについて順に話を進めていきます。

薬剤抵抗性てんかん

基本的にてんかんは、発作の様子や脳波・MIR検査などで医師が抗てんかん薬を調整し、数年間かけて治療していきます。

てんかんも治療は抗てんかん薬による対症療法が主である。

日本薬理学会 日本理試148,Pp121-122「自閉スペクトラム症とてんかん」安藤めぐみ etc.(2016)

しかし、なかなかコントロールできない場合は、「薬剤抵抗性てんかん」となります。下記引用のように、適切な薬物治療を行っているにも関わらず、発作が起きてしまう(例:1年以上の再発を防げない)場合です。

薬剤抵抗性てんかんとは、そのてんかんに対し適切とされる抗てんかん薬を単剤あるいは多剤併用で副作用がない範囲の十分な血中濃度で2剤試みても一定期間(1年以上もしくは治療前の最長発作間隔の3倍以上の長いほう)発作を抑制できないてんかん、と定義される。

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」第5章 薬剤抵抗性てんかんへの対応最終閲覧日:2022/5/6

国際抗てんかん連盟(ILAE)は薬剤抵抗性てんかんの定義を「適切に選択された2種類以上の抗てんかん薬で単剤あるいは併用療法が行われても継続した一定期間発作寛解が得られない場合」としている。継続した一定期間発作寛解とは、1年以上(もしくは治療前の発作間隔の3倍以上の期間)発作が再発しない場合である。(中略)

ただし、小児では必ずしも当てはまらず、3剤以上で抑制される場合も少なくない。

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」第9章 てんかん外科治療最終閲覧日:2022/5/6

薬剤抵抗性てんかんなら全て外科治療の対象になるかというと、そうでもありません。

難治てんかん

薬剤抵抗性てんかんは、厳密には「難治てんかん」とは違います。

難治てんかんは、薬剤抵抗性てんかんの中の一部で、日常生活が困難となる発作が止まってくれないてんかんをさします。

年に数回起こっても生活を妨げない軽い発作であれば薬剤抵抗性てんかんではあるが、難治てんかんとはいわない。抗てんかん薬で発作を抑制できない場合でも年に1~2回の発作であれば手術適応にはならないが、月に1~2回であれば手術を考慮する難治てんかんとなる。

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」第5章 薬剤抵抗性てんかんへの対応

難治てんかんの場合、外科治療も視野に入ってきますが、手術を検討できるタイプと、できないタイプがあります。次の章で詳しく見ていきます。

日本てんかん学会のガイドラインでは、外科適応を考慮するための薬剤抵抗性てんかんの基準として、2~3種類の適切な薬でも発作が2年以上抑制されない場合とされている。

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」第5章 薬剤抵抗性てんかんへの対応

難治てんかんは手術で治せる?

手術可能なてんかん

検査で病巣やてんかん焦点を特定できると、手術することが出来ることが多いようです。

病巣が確定している場合の病巣切除や半球離断では発作が止まる率が高いのですが(60-80%)、MRIで異常がない場合は止まる率は低くなります。

一般社団法人 日本小児神経学会「Q5:てんかんは手術で良くなりますか?」最終閲覧日:2022/5/6

適応基準

日本に2ヶ所ある国立のてんかんセンターの1つである静岡てんかん・神経医療センターのサイトに、てんかんのおおまかな適応基準が載っていました。

てんかんの手術(外科治療)のおおまかな適応基準として
・脳の中の限られた場所から発作が起こっていること
・薬で発作がおさえられない状態が2年以上続いていること
・発作がよくなれば、生活の質(QOL)がよくなることが期待できること
・手術による大きな後遺症がないと予測されること
・患者さんやご家族が手術の意義をよく理解していること
があげられます。
逆に言うと、脳の何箇所からも発作がでている場合や、発作が運動や感覚、言語など、脳の重要な働きに関わるところから起こっている場合、手術するかどうかについては慎重に考える必要があります。
手術時期については、脳腫瘍をもつ人や、出生早期から発作が頻発していて発達が障害されるおそれのあるお子さんでは、2年を待たずに、早めに手術適応を検討します。

独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター  てんかんの手術(外科治療)最終閲覧日:2022/5/6

具体的な手術可能なてんかんとして「てんかん診療ガイドライン2018」では、下記のタイプと明記されています。

  • ①内側側頭葉てんかん
  • ②器質病変が検出された部分てんかん → 画像検査で病変が認められ、切除可能な場合
  • ③器質病変を認めない部分てんかん → てんかん原性領域が診断できる場合
  • ④片側半球の広範な病変による部分てんかん
  • ⑤脱力発作をもつ難治てんかん → 脳梁離断術が有効

その他参考サイト:東京大学脳神経外科 てんかん手術の実際 最終閲覧日:2022/5/6

手術したら完全に発作はなくなるの?

完全になくなる場合もある

てんかんのタイプにもよるようですが、手術自体が厳しい適応基準になっているため、手術できた場合は発作がなくなる方も多いようです。

手術で発作がよくなる可能性の高い方では積極的に手術することを考慮します。一方、手術しても発作がよくなる可能性が低い、あるいは手術によって後遺症がおこる懸念が高い方では、慎重に適応を検討します。

独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター  てんかんの手術(外科治療)

側頭葉てんかん、特に内側側頭葉てんかんの手術成績は優れており、約8割の患者さんが発作から解放されています。一方、側頭葉外てんかんの手術成績は側頭葉てんかんよりはやや劣りますが、MRIで病変が見つかった患者さんでは約7割の方で発作が消失します。一方、側頭葉外てんかんで、MRIで病変を認めない方の手術成績は思わしくなく、発作がなくなる方の割合は5割にも満たないのが現状です。実際に手術するかどうかは、個々の患者さんで、手術で良くなる見込み、悪くなることがないかどうか(大きな後遺症が出ないかどうかなど)など、手術による得失をよく考えた上で判断することになります。

独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター  てんかんの手術(外科治療)

完全になくならない場合もある

発作が完全になくならなくても、生活の質を上げるということを目標にしているため、その場合、成功となるのだと思います。

てんかんの手術(外科治療)は単に発作を止めるだけでなく、それに伴うQOLの向上を究極的には目指すものですから、単に発作がよくなるかどうかという医学的な事柄だけでなく、患者さん個々の全体像をよくみて、てんかんの手術(外科治療)が患者さんのQOLの向上に結びつくかどうかを、術後に発作がよくならなかった場合も想定して考える必要があります。

独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター  てんかんの手術(外科治療)

服薬は続ける

手術後も手術前と同じように薬を数年(3年)飲むのは変わらないようです。手術の新しい傷が、てんかんの原因にならないようにする意味合いも含まれているようです。

手術適用になるのは、4人に1人?

手術可能なタイプはそんなに多くないイメージがあります。ただの個人的なイメージですが??♀?息子も難治てんかんですが、周りも含めて手術を検討できている人は少ない印象でした。

例えば、国立のてんかんセンターのもう一ヶ所である西新潟中央病院では、難治てんかんの割合が、全てんかん患者の中の約15-20%、手術をしたほうがいいという人を厳しく選ぶと約4-5%と参考数値を出していました。参考:国立病院機構 西新潟中央病院 てんかん外科治療Q&A最終閲覧日:2022/5/6

素人計算すると、多く見ても「難治てんかんの4人に1人が手術したほうがいい人」となる、というイメージでしょうか。きっと、昔に比べたらとても多いのだと思います。(医療発達や先生方に心から敬意を表します)

子どもの方が 外科治療の転帰は良好

子どもの難治てんかんの場合、大人よりも手術の結果は良いようです。

小児の薬剤抵抗性てんかんに対する外科治療の転帰は、成人よりも良好であり、特にMRIや病理で病変が存在する場合には良好である 1) 。ただし、ハイグレードエビデンスは存在せず、国際抗てんかん連盟(ILAE)はコンセンサスによる推奨としている。

日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」第9章 てんかん外科治療

発達に関わってくることも多いようです。

精神発達障害や異常な行動がある場合、手術によって発作が消失すると、これらの状態も改善することが知られており、早期の外科手術で発作を抑えることが勧められます。

UCB Japan  てんかんinfo 外科手術治療 最終閲覧日:2022/5/6

国立のてんかんセンターである西新潟中央病院のサイトでは、子どもの手術適応は慎重に決定するべきとする一方、最近は頻発するてんかん発作の脳への悪影響を考慮し早めに手術するべきという考えが強くなりつつあると記載していました。また、手術で発作が減ることで、知的能力が改善する例が多く見られるという記載も。子どもだと脳の回復力もめざましいこともあり、積極的に手術してもいいのではという専門医もいるとのことでした。

手術できるタイプに当てはまると、保護者としては少し安心しますよね。他サイトの情報も↓載せておきます。

こどものてんかんの治療では、発作を止める事はもちろんですが、発達を注意深く見守る事が大切です。こどもの脳の発達には、頻回のてんかん発作と大量の抗てんかん薬は良くないことがわかっています。治療を開始する時には、どのようなてんかんか(てんかん症候群)を診断し、発作と発達が先々どのようになるか見通しをたてる必要があります。またその際、手術可能なてんかんではないのか、MRIで腫瘍や皮質異形成あるいは海馬硬化などの異常はないか確認し、発作が止まらない時には時期を逸せず手術を受けられるように準備しておく事も必要です。

医療法人ベテール「てんかんはどのような病気?」2018年1月28日

手術以外の外科治療

迷走神経刺激療法

手術の適応外であったり、効果が不十分だった場合に、迷走神経刺激療法(VNS)というものがあります。子どもでも年齢に関係なく適用できるようです。

これは補助的な治療で、2年続けて発作が半分くらいになればいいねという緩和療法です。

1990年にアメリカで2件行われたものが最初のようです。日本でも薬事承認は2010年におりています。

手術により、首にある迷走神経に電極を巻き付け、胸に5cmくらいの刺激発生装置を埋め込みます。リード線は皮膚の下に通しているので、首と胸の小さな傷だけで済むようです。(6年後に電池交換のために再手術が必要)

あまり情報がなかったので、行われている件数は限られているのかもしれませんが、2017年には新しい機種の装置(VNS Aspire SR)が薬事承認されたり、それによりMRIがNGだったのがOKになったりと日々技術は進歩しているようなので今後に期待ですね。

参考サイト:一般社団法人 日本小児神経学会「Q12:てんかんに対する迷走神経刺激療法は小児にも使えるのですか?」、独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター てんかん情報センター情報室「迷走神経刺激療法(VNS)」、VNS Therapy|最終閲覧日:2022/5/6

【参考】てんかんの分類

てんかんは、脳に明らかな異常がない場合【特発性】と、明らかな異常を有する(と考えられる)場合【症候性】と、大きく2つに分けられます。

さらに、発作のタイプで、脳の一部から発作が始まる【部分てんかん(焦点性てんかん)】と、脳全体が一気に発作を起こす【全般てんかん】にも分けられ、「症候性全般てんかん」などのように組み合わせて分類されています。

発作の種類特発性(原因不明)症候性(病変が認められる)
【部分てんかん】
・単純部分発作(ねじれる等)
・複雑部分発作(口もごもご、自転車こぎ様など)
・二次性全般化発作(上記2つの発作から全般へ)
※経過が良い
ローランドてんかん(生後18ヶ月~13歳)
・良性後頭葉てんかん(学童期後半)  など
・側頭葉てんかん
・前頭葉てんかん
・頭頂葉てんかん
・後頭葉てんかん  など
【全般てんかん】
(脳全体)
・強直間代発作(強直:手足が伸び力が入る、間代:手足がガクガク)
・脱力発作
・欠神発作
・ミオクロニー発作(ピクッとする)
小児欠神てんかん(4~10歳)
・若年ミオクロニーてんかん
・覚醒時大発作てんかん  など
※発作回数が多い
※発症前から知的障害はなどの精神障害がみられる
ウェスト症候群(点頭てんかん)(乳児期、おおむね発達遅滞が認められる、指定難病)
レノックス・ガストー症候群(2~8歳、ほぼ発達遅滞が必発、指定難病)  など

※太字は、小児てんかんで代表的なもの

参考:独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター、てんかんinfo

さいごに

てんかん治療の今後の進歩に期待したいです。

息子も難治てんかんがあるので、闘った記録をまとめてみました。どなたかのご参考になれば幸いです。

◆参考◆【参考資料】てんかんの原因

最後まで読んで下さってありがとうございました!