【WISC-Ⅳ】結果の見方|これさえ見れば疑問は全て解消!
WISC-Ⅳ項目の用語説明だけではなく、それが意味することを、初めての人でも分かりやすく、順序だてて説明していきます。
結果の項目がたくさん
WISC-Ⅳでは、CHC理論という最新の知能理論に基づいて5つのIQが求められます。7つの場合もあります。
さらにIQ以外にも、たくさんの項目が数値化されて求められます。
保護者に渡される検査結果だけでも、下記のような項目があります。こちらは息子の結果です。各項目の詳細説明は後ほど説明いたします。
項目 | 合成得点 (IQ) | パーセンタイル順位 (「後ろから」どのくらいの順位か?) | 信頼区間90% (考えられる誤差) |
---|---|---|---|
全検査IQ(FSIQ) | 48 | <0.1 | 45-56 |
言語理解指標(VCI) | 55 | 0.1 | 52-67 |
知覚推理指標(PRI) | 60 | 0.4 | 57-72 |
ワーキングメモリー指標(WMI) | 54 | 0.1 | 51-65 |
処理速度指標(PSI) | 58 | 0.3 | 56-72 |
なぜ項目がたくさんあるの?
理由は大きく下記の2つです。
- ①最新の知能理論を用いて、その子の認知機能の「弱み」と「強み」を解明するため
- ②悩むことが少なくなるように
結果の見方を見るために必要な知識になるので、この点を簡単に説明していきます。
①WISCはその子の「弱み」と「強み」を解明する
最新の知能理論を使って解明する
WISC-Ⅳは、CHC理論という最新の知能理論に基づいて問題が作成されています。
この理論は、検査結果を読み取るために必要な情報なので、簡単に説明しておきます。
CHC理論とは、知能は単一な「一般的な能力」だけで成っているのではなく、3層構造であるという最新の知能理論モデルです。
難しいので「知能は簡単には測れないもの」とだけ思っていただければ大丈夫です。概要はページ最下部に載せておきます。
5つの知能要素から解明する
WISC-Ⅳは、CHC理論の10要素の中の5要素を測り、そこから全検査IQを算出するテストなのです。
- 結晶性知能(Gc)…知識量や語彙量、論理的思考能力
- 流動的な推論(Gf)…推理力やひらめきに関する能力
- 視覚的処理(Gv)…視覚に関する能力
- 短期記憶(Gsm)…聴力に関する能力
- 処理速度(Gs)…集中力や注意力に関する能力
数値化して「弱み」と「強み」を解明する
5要素の測定結果から、言語・知覚・短期記憶・処理速度の4指標を得点として算出します。そこからその子の全体的なIQを算出するのですが、検査結果に4つの指標も全て載せているのは、検査を受けた子の「弱み」と「強み」が分かるようにです。2)
弱みと強みが分かれば、支援する側も一人ひとりのニーズに応じた指導計画を立て、行動面や社会性への支援をする手立てを考えられるようになるのです。3)
「弱み」に対する支援例は別ページにまとめています。
②悩むことが少なくなるように
パーセンタイル順位や信頼区間があることにより、悩むことが少なくなるようになっています。後の章で詳しく解説しますのでここでは概要だけ↓。
- 例えばパーセンタイル順位の数値が1より小さい。
- =同年齢の中では、その子よりIQが低い子はあまりいない。
- =悩むことなく児童発達支援をお願いしていい/支援のクラスを選択しても良い、と言える。
- 検査当日、体調が万全ではなかった。
- 別日に10回受けても、信頼区間の数値より大きくなるのは統計学的に1回のみ。
- =今は受け直す必要はない。
以上が、WISC-Ⅳの検査結果の項目がたくさんある理由です。続いて結果内容の各項目の意味を、1つずつ説明していきます。
【WISC-Ⅳ】の結果の見方
①合成得点、②言語・知覚・ワーキングメモリー・処理速度指標、③全検査IQ、④パーセンタイル順位、⑤信頼区間の順に解説していきます。
項目 | ①合成得点 | ④パーセンタイル順位 | ⑤信頼区間90% |
---|---|---|---|
③全検査IQ(FSIQ) | 82 | 12 | 78-88 |
②言語理解指標(VCI) | 58 | 0.3 | 55-69 |
②知覚推理指標(PRI) | 104 | 61 | 96-111 |
②ワーキングメモリー指標(WMI) | 100 | 50 | 93-107 |
②処理速度指標(PSI) | 86 | 18 | 80-96 |
①合成得点
合成得点とは、保護者的にはIQ※と思ってもらうと分かりやすいです。
WISC-Ⅳでは、先述したように多くの要素の得点を「合成」して結果を算出しているので、「合成」の「得点」と表現されるのです。
※IQは2種類存在しており、WISC-Ⅳでは同年齢集団の中でのその子の位置を示す【DIQ】が求められます。もう一つのIQは、その子が何歳の人と同じかを示す【従来のIQ】であり、田中ビネー知能検査Vなどで求められます。
「合成得点」5つのうち、全検査IQから見たくなるところですが、先に言語理解などの4つの指標から見ていくと理解しやすいです。
②言語・知覚・ワーキングメモリー・処理速度指標
それぞれの意味
これらは、それぞれこんな力を数値化した項目です。
- 言語理解指標(VCI):言葉を理解して考える力はどのくらいかな?
- 知覚推理指標(PRI):言葉ではなく、見て理解して考える力はどのくらいかな?
- ワーキングメモリー指標(WMI):人の話を聞く力はどのくらいかな?
- 処理速度指標(PSI):機械的な単純作業のスピードはどれくらいかな?
問題も4つの大分類
WISC-Ⅳは、4つの指標を求めるため、問題自体も4つに大分類されています。→【WISC-Ⅳ】問題例
4指標を構成する知能要素
参考までに4つの指標を構成している、知能要素をまとめておきます。
構成要素 | 解釈(例) | |
---|---|---|
言語理解指標 | 結晶性知能(Gc) | 言語概念、習得知識など |
知覚推理指標 | 流動的な推論(Gf)と 視覚的処理(Gv) | 社会的認知、図形認知、描画、漢字書字、片付けなど |
ワーキングメモリー指標 | 短期記憶(Gsm) | 口頭指示の聞き取り、記憶、読みと綴りなど |
処理速度指標 | 処理速度(Gs) | 作業の速さ、要領の良さ、注意の持続性、運動協応、整った字を書くなど |
参考:筑波大学「WISC-IV知能検査【取扱注意】」2012/10/31
③全検査IQ(FSIQ)
総合的なIQ
続いて全検査IQ(FSIQ)についてです。簡単には、全検査IQがその子の総合的なIQというイメージです。
ただし、全検査IQは、4つの指標の平均ではありません。
4つの指標の「合成得点」を求める前段階の「評価点合計」を合計し、そこから全検査IQの「合成得点」を算出するのです。参考程度ですが、算出方法はこちらのページに記載しています。
全検査IQが70以下は、知的障害か?
もし全検査IQが70以下の場合は、知的障害の可能性が高いです。しかし知的障害はこの検査結果だけでは診断されません。知的障害については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。
④パーセンタイル順位
パーセンタイルは「自分の下には何パーセントの人がいるのか?」が分かる、統計学で用いられる数値です。
例えば、パーセンタイル順位が20の場合は、同年齢集団の中には、その子どもよりも得点の高い子どもが80%存在することを意味する。
日本文化科学社日本版WISC-IVテクニカルレポート#12
よって、IQのパーセンタイルは、数字が大きいほど喜ばしいものとなります。
100人の母集団の場合、パーセンタイルは「50」が真ん中(中央値)、「99」はとても良い順位、「1」はとても悪い順位。「1」以下、「99」以上は小数点でも表される。
IQの分布は上の図のように正規分布であり、それは平均的なIQほど人数の割合が高いことを意味します。
さらに詳しく知りたい方はIQについての解説ページにて。
平均的なIQほど人数の割合が高いため、IQが低いと、パーセンタイルの数値が一気に「2」や「3」と小さくなってしまう
息子のWISC-Ⅳの全体的なIQは48だったのですが、そのパーセンタイルが「<0.1」でちょっとビックリしました。しかし確率論と分かると納得でき、この数値の人はあまりいないということが、はじめて数値的に分かり参考になりました。
厳密には異なりますが、分かりやすく言うと、下記のイメージです。
- 知的障害と言われるIQ69 → パーセンタイル2(後ろから数えて2番目)
- 平均レベルの真ん中であるIQ100 → パーセンタイル50(後ろから数えて50番目)
- 超人的なIQ130 → パーセンタイル98(後ろから数えて98番目、ほぼ先頭)
- ※息子の実例:全体的なIQ48 → パーセンタイル0.1(後ろから数えて0.1番目。すごい表現だ…)
聞き慣れない言葉ですが、実は一度は目にしたことがあるであろう、母子手帳に乗っている乳幼児の体重・身長の身体発育曲線に使用されています。
⑤信頼区間
「信頼区間」とは統計学の用語です4)。WISCオリジナルの言葉ではありません。
「同じ検査を受け直したとして、今回との誤差はどのくらい考えられる?」と考えると分かりやすいです。
信頼区間90%が「78-88」の場合。その子の真のIQは、10回同じ検査を行えば、9回はIQ78~IQ88の範囲の中の数値となるだろう、ということ。1回はその区間外(88以上 or 78以下)の結果になることもあり得るよ、ということを意味している。
日本版WISC-IVテクニカルレポート#12には「一度の検査から得られた得点は、さまざまな要因による誤差を含んでいる可能性
」を考慮し、検査の結果は一定の幅も報告していると書いてあります。さらに、95%信頼区間と90%信頼区間が用意されているが、通常90%信頼区間の方を使うとも。
上記以外に算出できる2つのIQ
WISC-Ⅳでは、全検査IQ(FSIQ)、4つの指標としてのIQ(VCI、PRI、WMI、PSI)以外に、さらに2つの指標のIQを求めることも可能です。
その項目が載っている人もいると思うので、簡単に説明しておきます。
- 一般的知的能力指数(GAI:General Ability Index)…言語理解指標(VCI)と知覚推理指標(PRI)から算出
- 認知熟達度指数(CPI:Congntive Proficiency Index)…ワーキングメモリ指標(WMI)と処理速度指標(PSI)から算出
GAIは結晶性能力、言語性流動性推理能力、非言語性流動性推理能力を反映する指標、CPIは熟達して自動化され、情報を流暢に処理する能力を反映する指標と言うことができる。
日本版WISC-IVテクニカルレポート#11
GAIは全検査IQを構成する4つの指標がとても乖離してしまい、正確な全検査IQの推定が難しい場合に、全般的な知的能力として使用することができます。
学習面でつまずいている子どもではWMIやPSIが弱い場合が少なくない。あるいは、運動機能に障害のある子どもはPSIの実施が困難である。これらの指標の弱さが必要以上にFSIQを引き下げ、先に述べた知能と学力のディスクレパンシーによる判断に支障をきたすことがある。こうしたときにGAIを全般的知能能力の推定に用いた方がよい場合がある。
日本版WISC-IVテクニカルレポート #11
また、子供の全検査IQとGAIの間の重大な不一致は、学習障害を示している可能性があるという情報↓もありました。
Significant discrepancies between a child’s FSIQ and GAI may indicate a learning disability.
Resources by HEROES 'Understanding Your Child’s WISC-V Scores'
CHC理論について
- CHC理論(Cattell・Horn・Carroll理論)
- 第Ⅲ層の「一般的な能力(g)」は、その人の知能の土台のようなもの
- それは、第Ⅱ層(幅広い能力)の10の要素から成り立っている(画像では8個の丸)
- 第Ⅱ層は、さらにそれぞれ第Ⅰ層(狭い能力)の複数の要素から成っている
- 各要素は、多少の凸凹はあるが極端な差が生じることは少なく、正の相関を持っている可能性が高くなっている
- 第Ⅲ層の「一般的な能力(g)」は、その人の知能の土台のようなもの
- それは、第Ⅱ層(幅広い能力)の10の要素から成り立っている(画像では8個の丸)
- 第Ⅱ層は、さらにそれぞれ第Ⅰ層(狭い能力)の複数の要素から成っている
- 各要素は、多少の凸凹はあるが極端な差が生じることは少なく、正の相関を持っている可能性が高くなっている
さいごに
今回は、WISC-Ⅳの結果の見方を、必要な情報も含め説明してきました。
WISC-Ⅳの概要、検査方法、どんな子が受けているかなどは、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました!
参考情報の引用元
1) 英語版Wikipedia「Cattell?Horn?Carroll theory」(August, 9, 2022, 17:13 UTC)URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Cattell%E2%80%93Horn%E2%80%93Carroll_theory
2),3) 日本語版Wikipedia「児童向けウェクスラー式知能検査」(2022年2月6日 (日) 17:30 日本時間)URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/児童向けウェクスラー式知能検査
4) いちばんやさしい、医療統計「95%信頼区間の求め方計算式とは?有意差やなぜ1.96なのかの意味まで」最終閲覧日2022年9月30日