はじめての言葉はいつ話す?【定型発達児の言語発達】

1歳を過ぎてもまだ初語、つまり意味のある言葉(以降、有意味語と呼ぶ)を話さないと不安になりますよね。
周りのお友達がもう有意味語を話していたり、不意に「まだ話さない?」などと質問されたり…。この頃は周りの子との比較ばかりで疲れるー!
そんな発狂はさておき、ご存知ですか?普通はいつ頃から話し始めるのか??
私はそんな基準を知らずに「あれ?うちの子遅いの?」と不安で、ネット検索する日々を送っていました。
しかしネットでは「個人差が大きい」「2歳や3歳になってから判断」という事ばかり。それは不安を感じている母親にとっては不十分な情報量でした。
そこで今回は、定型発達の赤ちゃんは、いつごろ、どのようにはじめて言葉を話すのかを詳しく説明していきます。
わが子の言語発達に不安を感じている親御さんがいたら必見です。定型発達児の生まれてから初語までの言語発達を知れるので、わが子と比較ができます。
いつ有意味語を話すものなの?
生後10ヶ月から14ヶ月の間
定型発達のこどもは、生後10ヶ月から14ヶ月の間に初めての有意味語を発します。
このことは、乳児の言語研究で国際的に有名なメンフィス大学のオラー(D.KimbroughOller)教授の多くの研究をはじめ、他の先行研究の数々から明らかになっています。

参考:Oller DK, Eilers RE.「The role of audition in infant babbling.」(1988). Child Dev. 1988;59(2):441‐449.
話すためには、有意味語を話す前(前言語期)が大切
前言語期とは
初めての有意味語を話す前の時期を「前言語期」といいます。
前言語期に、声道を発達させながら、周りの人々からの声掛けの情報を蓄積しながら、下記のような言葉を話す練習をしていきます。
発声期
生後直後~1ヶ月:まだ声道が共鳴腔の機能をもたない。空腹感や不快感に伴って反射的に発せられる泣き声で鼻音化している
クーイング期
生後2~3ヶ月:まだ声道はそれほど発達していないが、クーイングができるように。喉の奥でクーと聞こえるような「アー」「ウー」などの母音を鳴らす。大人の呼び掛けにも音声で反応できたりする
過渡期の喃語期
生後4~6ヶ月:徐々に声道も発達しはじめ声遊びをする。きーきーと叫んだり、うなったり、唇をブルブルと震わせて声を鳴らしたり
生後5~6ヶ月:不完全な喃語が出てくる
規準喃語期
生後7ヶ月~10ヶ月:声道が共鳴腔の機能を果たせるようになる。標準的な喃語が出てくる。「マママ」「バババ」「バブ」など親がおしゃべりしていると感じられるようになる。しかし、意味を持たないため「ママ」と呼んだわと思われてもこれは本当の言葉ではない。この頃は手足をリズミカルによく動かす時期で、この運動発達と規準喃語の生成は共起することが多い
その後
生後11ヶ月頃~:ジャーゴンと呼ばれるおしゃべりをしているかのような発声が出てくる
生後12ヶ月頃:車を見て「ブーブー」など意味のある一語発話をするようになる
声道が共鳴腔としての機能を果たすため、順序性のある発達を経てからの発語となります。このことから、いきなり話せないのが分かりますね。
そしてオランダ アムステルダム大学の言語学者、ベイナム博士は、どの言語圏でも70%の乳児が規準喃語を生後8ヶ月までに話すとしています。

参考:「Early Stages in the Development of Speech Movements」 Florien J. Koopmans-van Beinum and Jeannette M. van der Stelt Institute of Phonetic Sciences, University of Amsterdam, The Netherlands. In B. Lindblom & R. Zetterstrom(Eds.),Precursors of early speech. New York: Stockton Press. Pp. 37-50.
正常な聴覚発達と運動発達が重要
言葉になる過程で大切なことの1つが、周りの人々からの関わり(声掛け)です。
まず、聴覚的な経験がないと人は言葉を話せません。
規準喃語期に指さしなどを通して他の人と感情を共有し、その中で言語を聞いていき、徐々に分節化しながら単語を意味化していくのです。
規準喃語期が重要
前述のオラー教授は、特に6ヶ月以降始まる規準喃語期がとても重要としています。さらに聴覚障害児は規準喃語期に移行しないことを報告しました。
過渡期の喃語期までは聴覚障害児も定型発達児と同じ発達をしているのです。
しかし、そこから先は聴覚の経験が必要ということです。
そのためオラー教授は10ヶ月頃に喃語を話せない子は言語発達、言語病理学分野のリスクが高いため専門医の介入が必要としています。
運動発達が重要
言語発達には運動発達も重要になっています。
運動発達が遅いダウン症候群の子は、規準喃語の出現も遅れることが知られています。
発達心理学を専門とされている茨城キリスト教大学の江尻桂子教授らは、手足のリズミカルな運動が規準喃語の生成と共起しているとしています。
同期によつて迅速な発語器官の運動が促され,より高次な音声生成が達成される.そして,これらの聴覚フィードバックが強化となり,同期現象はより頻繁に生じるようになる.その結果,規準喃語の生成に必要な運動コントロール機能の習熟が支援されることとなるのではないかと推測される.
公益社団法人 日本心理学会 1999 年出版 Japanese Psychological Research 69 巻 6 号 p. 433-440 「乳児における喃語と身体運動 の同期現象 Ⅱ1-音 響分析による同期性の機能の検討」日本学術振興会 江尻桂子 ・京都大学 正高信男
他にも前述のオラー教授は、早産で生まれた未熟児は満期出産児と比べて規準喃語と手足のリズミカルな運動の出現が早くなることも報告しています。
規準喃語は出生後の聴覚経験の長さと運動発達とが密接に関係していることが分かります。
指さしと有意味語の関係

喃語の出現が遅い子は、その後の言語発達も遅いことが知られています。
語彙数は「指さしとの関連性がある」ことも1960年代から研究され知られています。
参考:Werner, H., & Kaplan, B. (1963). Symbol formation: An organismic developmental approach to language and the expression of thought. New York: Wiley.
詳しくは「0歳~3歳【指さし・語彙数】密接な関連性」ページで説明していますので、そちらもご覧ください。
こどもがより注意を傾ける声を考える
乳児は人工音より人間の声、低い音域(男性)より高い音域(女性)の声に反応しやすいことが分かっています。
さらに抑揚豊かにゆっくりと話しかけるマザリーズと呼ばれる話し方を好み、親は自然とそのような話し方をしていることが観察されています。
それらのことから言葉を話すには、話始める前から母親をはじめ周りの人々からの優しい声掛けが大切なことが分かります。
まとめ
これらの事から、はじめて意味のある言葉を話すためには、その前の前言語期の発達や周りの人々の接し方が大きく関わっていることが分かりますね。
そして、語彙数の差は指さしが始まった頃から大きくなる頃まで影響し続けます。
有意味語が遅く心配な方は、これらを踏まえ、お子さんと向き合っていつもより意識した ”声掛け” をしてみてはいかがでしょうか。
読んで下ってありがとうございました!