【指さし】の5段階発達|自閉症児は3段階以降が困難
子どもの「指さし」は、早い子では生後9ヶ月頃からはじまります。
しかし、その頃の赤ちゃんの指さしは「1歳6ヶ月児健康診査でチェックされる指さし」とは違います。 自閉スペクトラム症児でも出来る初歩的な指さしなのです。
どんな子でも、指さしは「5段階」の発達をたどります。一見同じ「ものに指をさしている」動きですが、生後9ヶ月~1歳6ヶ月頃の間に機能と役割が変わっていきます。
自閉症スペクトラムの子では、その途中で発達が難しくなります。そのため、自閉症スペクトラムの子では、「出来る指さし」と「出来ない指さし」があります。
「1歳6ヶ月児健診でチェックされる指さし」では、自閉スペクトラム症児などの早期発見を目的に、そこを見極めています。(詳しくは後ほど)
今回は、指さしの5段階発達について、いつ頃、どんな指さしがその段階なのか、自閉スペクトラム症児が「出来る指さし」と「出来ない指さし」も含めて詳しく説明していきます。
[0/5] 生後5~9ヶ月頃:前段階
最初に指さしをする前にも、前段階の発達が必要です。大人が指を指した方向や物を見ようとする行動の獲得で、足場づくり(scaffolding)とも呼ばれます。それは、生後5ヶ月頃からはじまります。
- 生後5~6ヶ月頃…大人の指さし行動そのものに注目をするようになる。指さしは模倣では始まらない。1)
- 生後7~8ヶ月頃…大人の指さす方向を見て、対象物を探せるようになる。生後10ヶ月ごろまでにほとんどの子どもが獲得。
- 生後8~9ヶ月頃…はじめて自発的な指さしができるようになる。1歳半までには100%の子どもが何かしらの指さし行動を行う。自閉スペクトラム症児でも。
参考:教育心理学研究 31巻 (1983) 3号 Pp. 255-264「指さし行動の発達的意義」秦野 悦子 p.259、「指さし行動の発達的意義」 p.259
[1/5] 8~9ヶ月頃:興味の指さし
◇自閉スペクトラム症児も【出来る】指さし◇
- 興味・驚き・再認の指さしです。
- お母さんに抱っこされるような安心している状態で、動いている物などに対してやり始めます。
- お気に入りのものなどには、いつも決まって指さししたりもします。2)
- 指さしする際には、声を発するようにもなってきます。
- でも基本的にはまだ二項関係(「自分」と「他のひと(物)」)の認識世界です。(詳しくは後述します)
[2/5] 11ヶ月頃:要求の指さし
◇自閉スペクトラム症児もできる指さし◇
- 自分の気持ちの中だけで「欲しいよー」と思いながら指さす。
- 多くの子で、1歳頃までにみられるようになる。3)
- ここまでが自閉スペクトラム症児でもできる指さし。(中度知的障害の自閉スペクトラム症児である息子も、興味、要求の指さしは普通に出来ていました)
自閉スペクトラム症児はこの第2段階まではこなせますが、以下の第3段階からの発達が難しくなります。
要求の指さしのように、自分がほしいものを手に入れるために他者を利用する行為や身振りである「原命令(Proto-imperatives)」と、叙述の指さしのように他者と周囲を共有しようとする行為である「原叙述(Proto-declaratives)」行動において、自閉症児は「原叙述」行動にのみ、困難さを持っている
東北大学大学院教育学研究科研究年報第58集・第2号(2010年)「自閉症児における情動的交流遊びによる共同注意行動の変化」李熙馥・田中道治・田中真理
[3/5] 11ヶ月~1歳3ヶ月頃:叙述の指さし
◆ここからが、自閉スペクトラム症児では発達しにくい指さし◆
- 他のひとの注意を引くために「あっ」と声を出して指さす、「見て!」といった感じで指さす。
- この時、子どもはその対象物とお母さん(養育者)の顔を交互に見る(交互凝視)。表示・伝達の機能が含まれているため。
- 相手が反応するまで、指さしや声出しが続く。4)
叙述とは「物事について順序立てて相手に伝えること」です。例)「事件をありのままに叙述する」
なぜ自閉スペクトラム症児では難しい?
三項関係の発達が難しいため
- この【叙述】の指さしができるということは、三項関係の成立を意味する。
- →赤ちゃんのような二項関係の認識世界から、「自分」と「他のひと」と「物」という三者を含んだ認識世界に発達を成し遂げた証拠。
- 【叙述】の指さしを繰り返しながら、自ら積極的に共同注意を深めていく。
- 自閉スペクトラム症児ではそこの発達が難しいとされている。
- そのため、【叙述】の指さしも難しい。
自閉スペクトラム症児では、「二項関係」→「三項関係」認識への発達に困難が生じる。そのため、叙述の指さし以降の発達が見られない(遅い)ことが多い。
18か月迄に自発的伝達手段としての叙述の指さし行動が認められない場合,①対人・対物的認知発達,②社会的相互関係能力,③前言語的伝達行動の各発達領域に関する,何らかの発達上の躓き,歪みが生じることを強調している。
「指さし行動の発達的意義」p.262
論文からの実例
論文で見つけた自閉症児の症例でも、共通して指さしの発達が遅かったことが分かります。下記ページでご確認ください。
[4/5] 1歳0ヶ月頃:質問の指さし
- 「これなあに?」というような意図で対象物を指さし、大人の応答を待つときに使われる。
- 知らない物へ関心を抱き名称を知りたいという行動の他に、すでに知っている物の名前を確認するためにも繰り返し行われる
- 他のひととのやりとりや交流を楽しむ手段でもある。
- 自分が知っている物の名前について指差して、大人が違う名前を答えたりすると、「違うよ」とというような仕草を交えて、自分が知っている名前を聞くまで繰り返し質問の指さしを続けるなどの様子もみられるようになる。
[5/5] 1歳0ヶ月前後~1歳6ヶ月まで:応答の指さし
これが1歳半健診でチェックされる指さしです。定型発達児の場合は、早い子では1歳0ヶ月前後からできるようになり、遅くても1歳6ヶ月までには獲得できていると言われています。
- 「猫ちゃんどれ?」に対して「これだよ」という感じで指をさすような、聞かれたことに答えるための機能をもつ指さし。
- 第4段階までの指さしが、子どもが自分の興味や関心があるものに対して指さしをして他のひとの注意を引くという行動だったのに対し、第5段階の【応答】の指さしは、他のひとからの指さしに対して、意味を理解し、自分がどのように行動するべきか考える必要がある。
- 知的、社会的因子の関与が高いもの。
1歳半健診でのチェックポイントについては、下記ページに詳しくまとめています。
ちなみに、知的障害を伴う自閉スペクトラム症(自閉症)の息子は、2歳半頃に獲得できました。
さいごに
今回は、自発的な指さしの「前段階」と「5段階の発達過程」について、詳しく見てきました。
自閉スペクトラム症児でも、指さし自体は出来ること、どの指さしが難しいかがお分かりいただけたと思います。
また、指さし行動があるときに周りの人が反応し声掛けしてくれることで、言語発達も促されることが多くの先行研究で明らかになっています。詳しくは下記のページをご覧ください。
指さしの他に、言葉の遅れなどについてご心配がある方はこちらもご参考になさってください。
今回はこの辺で。最後まで読んで下さって、ありがとうございました!
参考情報・文献の引用
1) 前段階について
指さした対象物が、指と触れるように近い場合には、時には、対象物に注目しているように見えることもありますが、赤ちゃんはそこまで発達していません。また、真似して人差し指で対象物を触ることも見られますが、それは指さしとは異なります。
2) 興味の指さしについて
その出現状況としては,抱かれている時などに,動くもの,光るものなど,視線の上方にある,やや目立つ物に対して,あるいは,外界変化に対して,凝視し,驚ろいたように指をさす。また,日常なじみの対象にも指さし行動が生じ(中略),見ると必ず指さし行動を始める特定対象の存在も認められている
「指さし行動の発達的意義」p.259
指さし行動に発声が伴われる傾向は,指さし行動初出直後の子どもでも観察され,10~11か月以降,50~70%の指さし行動に何らかの発声が伴うようになる
「指さし行動の発達的意義」p.262
3) 要求の指さしについて
第2段階の「要求」は,11か月前後から出現し(中略),12か月頃には,ほとんどの者(80%)が使用する。
「指さし行動の発達的意義」p.260
4) 叙述の指さしについて
対象を指示した後,他者にそれを教える行為であり,母親が応答する迄,発声や指さし行動が持続することが,特徴的である
「指さし行動の発達的意義」p.260