【オウム返し】する子は自閉症なの?|即時反響言語

2歳のオウム返しは自閉症なの?

いっぱい喋れるようになってきたけど、オウム返しが多い気がする。自閉症・自閉スペクトラム症の子じゃなくてもオウム返しするのかな?今回は、そのような疑問点やオウム返しについて詳しく見ていきます。

※自閉症と自閉スペクトラム症の違いについてはこちら

定型発達児も【オウム返し】はする

模倣学習と呼ばれる

定型発達児でも、話すことを習得中の乳幼児では「オウム返し」をする姿はよく見られます。

多くみられ始める目安は、名前を呼ばれた時に返事ができたり、挨拶ができたりする1歳半~2歳になる頃です。1)

それは「模倣学習」と言われるオウム返しです。2)

エコラリアと機能が違う

受け手側からすると同じオウム返しですが、自閉症スペクトラムの子のオウム返しとは、機能的には異なります。

それは、自閉症スペクトラムの子は、言語発達の獲得プロセスが定型発達児と異なるためです。

自閉症スペクトラムの子・人がするオウム返しは、専門的には即時性反響言語(エコラリア)と呼び、模倣学習のオウム返しとは区別されるものです。3)

自閉症の【オウム返し】

約80%の子で認められるため診断基準の1つに

発語がある自閉スペクトラム症児の多くはオウム返し(反響言語/エコラリア)をする特性を持っています。その割合は80%前後と報告されています。4)

操作的診断基準となるDSM-5でも、自閉スペクトラム症の診断基準の一つとして「反復的な会話(反響言語)」と明記されています。診断基準の詳細については、下記ページをご覧ください。

よくオウム返しする時期は?

自閉スペクトラム症児のオウム返しは、言葉を話せるようになる前段階(前言語期※)や、物がなくてもエアーでそのモノをイメージしてごっこ遊び(象徴遊び)ができるようになるような前の発達段階の頃によく見られます。5)

※前言語期は、初語を発する前の時期のことです。定型発達児では、生後10ヶ月~14ヶ月の間に初めての有意味語を話す子がほとんどです。

自閉症スペクトラムの子は言語発達が遅い子が多いので、2歳以降から見られるかもしれません。

知的障害を伴う自閉スペクトラム症(自閉症)の息子は、2歳4ヶ月頃からオウム返しをよくするようになっていました。下記動画で、その様子がご覧いただけます。

自閉症児のオウム返しの様子が分かる動画
Youtube【自閉症の特徴 No.9/12】2歳4ヶ月 オウム返し|即時反響言語

以下で自閉症スペクトラムの反響言語について、もう少し詳しく見ていきます。

反響言語には「オウム返し」と「独り言」の2種類がある

「オウム返し」というと、人が言った言葉を即座に機械的に繰り返すイメージがあると思います。それを「即時性反響言語(即時性エコラリア)」といいますが、反響言語にはもう一種類存在します。

それを「遅延性反響言語(遅延エコラリア)」といいます。

街中でも自閉スペクトラム症の人が、独り言で、丸暗記したフレーズをそっくりそのまま喋っているのを一度は見たことがあると思いますが、そのことです。6)

遅延性反響言語については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

オウム返しだけでなく、自発的にも話します

オウム返などの反響言語を話している子は、全てが反響言語ではなく、自発的な言葉も話します。

言語発達が様々なレベルの26人についての、自閉症児の反響言語と自発的な言語についての研究では、下記のような結果になっていました。7)

  • 非常に短い発話を使用している子たち…反響言語のフレーズは、自発的な発話よりも大幅に長かった
  • 言語発達のより高いレベルの子たち……反響言語と自発的な発話の長さには、有意差はなかった。上記の子たちより、反響言語の発話は大幅に少なかった
  • 言語能力が高くなるほど、反響言語の発話の頻度は減少した。

つまり、反響言語と自発的な言葉の比率は、言語発達レベルと比例していたということです。

自閉症の息子は2歳11ヶ月で「オウム返し」「独り言」「自発的な発語」がありましたが、その頃はオウム返しが一番多かったです。

なぜ【反響言語】を使うの?

なぜ自閉スペクトラム症の人は「オウム返し」や「独り言」などの反響言語を使用するのでしょうか?

この明確な答えについてはまだ研究途中ですが、意味がある言動と考えられています

過去には意味のない機能だと言われていたこともありますが、それは受け手側からしたら意味のないコミュニケーションであるだけです。

コミュニケーションのツールとして

本人なりに意味があったり、コミュニケーションの機能も含まれていると最近の研究から明らかになっています。8)

ことばの自己化が促される

言語発達面においても、「オウム返し」であっても他の人と言葉を交わす刺激が、言語の増加に繋がると言われています。9)

過去に行われた研究では、下記についても明らかになっています。

  • 自閉スペクトラム症児が指定されたモノを実験者へ渡す際に、そのモノの名前を【オウム返し】させると、受容的なラベル付けが容易になる
  • 発語のある自閉スペクトラム症児については、【オウム返し】によって一般化を促進した(発語のない場合は促進されなかった)

利用すべき【反響言語】

なので自閉スペクトラム症の「オウム返し」は排除せず、積極的に言語学習支援の方法として利用するべきと結論付けられています。10)

まとめ

今回は、小さい子のオウム返しについて見てきました。

小さいうちは定型発達児でも自閉スペクトラム症児でもオウム返しをするので、それだけではその子が自閉スペクトラム症かどうかを判断することが難しいことが分かりました。

自閉スペクトラム症かどうかは、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

参考・引用じょうほう

1) 愛知県犬山市「資料1 0歳児~5歳児の言葉に関する目安となる姿一覧

2)

模倣を通じて他者から学習することは、人間の技能の獲得において本質的役割を演じている。(中略)模倣学習では他者の行動を観察し、それと同様の行動が出来るように行動形成を行う

京都大学大学院 田渕 一真ら(2006)「模倣学習と強化学習の調和による効率的行動獲得」The 20th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence

3)

エコラリア(echolalia)は,自閉症スペクトラムの子どもの前言語期から言語獲得期によくみられるものである。西村(1995)が指摘しているように,エコラリアと定型発達の言語発達上でみられる「発達的おうむ返し」「模唱」とは区別される。

神戸学院大学 小山正(2010)「エコラリアの意味を問い直す-発達支援のために-」発達心理学会第22回大会

4) 反響言語をするASDの人の割合

It is estimated that up to 75% of people on the autism spectrum have exhibited echolalia.

Wikipedia “Echolalia

↑和訳概要:自閉症スペクトラムの人々の最大75%が反響言語を示したと推定されています。

5) 自閉症児がよくエコラリアをする時期

即時反響言語は,前言語期,象徴機能出現前期にみられ,事例によっては同様の発達時期にあっても即時反響言語がみられない事例もある。

小山正(2010)

反響言語は自閉症スペクトラムの児童において前言語期および言語獲得期に典型的に見られる

Wikipedia「反響言語

6)

Parents of PDD children often report that their children do not use the language they have to communicate. It is difficult to carry on a con-versation with autistic children who are often uncommunicative and make irrelevant, repetitive remarks that recur in conversation

Fine, Jonathan & Bartolucci, Giampierro & Ginsberg, Gary & Szatmari, Peter. (1991). “The Use of Intonation to Communicate in Pervasive Developmental Disorders. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines. “

↑和訳概要:自閉症の子たちの親は、子ども達が「コミュニケーションをとる必要のある言語を使用していない」と報告することがよくあります。コミュニケーションが取れず、会話の中で繰り返される「無関係で反復的な発言」をする自閉症の子供たちと会話を続けることは困難です

7) 自閉症児の反響言語と自発的な言語についての研究

In children using very brief utterances, echolalic phrases were significantly longer than their spontaneous speech. At higher levels of language development there were no significant differences between the lengths of echoed and spontaneous utterances. The frequency of echolalic phrases in children’s speech was also found to be significantly less than the frequency of their spontaneous remarks, and the frequency of echolalic utterances declined as children advanced in linguistic competence.

P Howlin “Echolalic and spontaneous phrase speech in autistic children" J Child Psychol Psychiatry. 1982 Jul;23(3):281-93.

↑和訳概要:非常に短い発話を使用している子供では、エコラリアは、自発的な発話よりも有意に長かった。言語発達のより高いレベルでは、反響発話と自発的発話の長さの間に有意差はありませんでした。 子供の発話におけるエコラリアの頻度は、自発的な発言の頻度よりも有意に少なく、子供の言語能力が向上するにつれて、エコラリアな発話の頻度が低下することも判明しました。

8)

エコラリアには,即時反響言語と遅延反響言語があり,遅延反響言語には,子どもの伝達意図や意味が込められている

小山正(2010)

直前の言葉を繰り返す場合にも多様な意味が込められていたり、「セコムしてますかぁ」というコマーシャルのフレーズを繰り返す遅延性のエコラリアの場合も、やはり多様な意味が含まれているのです。

田中真理(2009年)「ひととひととの コミュニケーションとは-自閉症児との関わりから」東北大学 まなびの杜 第49巻

Studies have shown that in some cases echolalia is used as a coping mechanism allowing an autistic person to contribute to a conversation when unable to produce spontaneous speech.

Wikipedia “Echolalia"

↑和訳概要:研究によると、自閉症の人が自発的な発話をすることができないときに会話に貢献できるようにする対処メカニズムとして、反響言語が使用される場合があります。

9)

おうむ返しと一般に言われているものの中にこのような他者のことばの取り入れがみられてくる。この時期には日常生活経験の中で他者とことばを交わすことが重要である。その過程で他者のことばの自己化が深まり,新たな語彙の増加や語連鎖がみられてくる。

小山正(2010)

10)

Prizant et al.(2003)のサーツモデルに代表されるように、自閉性障害児のエコラリアを言語発達段階に位置づけ、コミュニケーション手段として積極的に利用していくことが発達支援の一部として位置づけられるようになってきた。

目白大学 廣澤満之(2010)「エコラリアに対する保護者の理解」発達心理学会第22回大会 シンポジウム エコラリアの意味を問い直す-発達支援のために-

理解○発語×は、内言語は豊かなのに、発語が非常に遅れる場合で言語失行に相当する。有名な東田直樹がこのパターンである。一方、理解×発語○とは、超皮質性失語症に相当し、機械的なオウム返しのみが認められるタイプの自閉症である。言語失行型も、超皮質性失語症型も、フォローアップをしてゆくと、徐々に×であった言語機能が発達をして行き、それぞれ発語、言語理解が向上していくのを見ることができる。

杉山登志郎(2016)「自閉症の精神病理」自閉症スペクトラム研究 第13巻 第2号 p.5-13

その他参考:Charlop, Marjorie H. (1983).?“The Effects of Echolalia on Acquisition and Generalization of Receptive Labeling in Autistic Children". Journal of Applied Behavior Analysis.?16?(1): p.111?126.