先生は資格を取る際に、障害児のことをどのくらい学ぶ?
現代では、世界的にインクルーシブ教育システムが推進され、日本でもどの学校・園でも特別支援教育が受けられるようになっています。
では、先生方は資格を取る際に、障害のことや特別支援教育についてどの位学ぶのでしょうか?
小学校教諭
一般的な教員免許の先生
特別支援のための必須科目は1科目
小学校の教諭(一般的な教員免許の先生)になるための特別支援に関する必修科目は1つです。(2021/07/14現在)
例えば、国立大学の東京学芸大学 教育学部においては、科目名は「特別支援教育の理解」、1年生で取得する単位でした。内容は下記のようになっています。
- 1回目…本授業の目的と方法―教職課程における本授業の位置付け
- 2回目…特別支援教育の制度と歴史
- 3回目…障害はないが特別な教育的ニーズのある子どもとその支援
- 4回目…視覚障害・聴覚障害の理解
- 5回目…知的障害・自閉症の理解
- 6回目…肢体不自由・病弱の理解
- 7回目…言語障害・学習障害・ADHDの理解
- 8回目…特別支援学校での教育
- 9回目…通級による指導
- 10回目…通常の学級での特別支援教育システム
- 11回目…個別の指導計画と教育支援計画
- 12回目…合理的配慮と基礎的環境整備
- 13回目…巡回相談と地域の学校支援
- 14回目…多職種連携とチームアプローチ
- 15回目…授業のまとめと期末試験及び試験の解説
- 参考:東京学芸大学 教育学部 2021年度 教育学部シラバス「60100500 特別支援教育の理解」
より詳しく学びたい場合は、他に選択科目が用意されています。
介護等体験の施設は、障害児以外の施設も対象
さらに小学校・中学校の教諭免許を取得するためには、教育実習の他に、5日間と2日間の計7日間の介護等体験(特別支援学校、社会福祉施設など)が義務付けられています。
5日間対象の施設には、成人の福祉施設や児童養護施設も含まれています。
介護等体験(7日間)は、原則として、5日間の社会福祉施設等(老人ホーム・高齢者介護施設・乳児院等)での体験と2日間の特別支援学校(盲学校・聾学校等含む)での体験です。
佛教大学通信教育課程 取得可能な免許・資格>小学校教諭 取得するには
その他参考:文部科学省 総合教育政策局教育人材政策課「介護等体験に関するQ&A」
特別支援学校教諭の免許を持った先生
普通の教諭免許状に+α
学校の先生の中には一般的な教諭免許状の他に、「特別支援学校教諭」の免許状を持っている先生もいます。
先生の配属先は、ある程度希望制なので、特別支援学校教諭=100%特別支援学校の先生というものではありません。
もともとは、中間休みにドッジボールをするような、体育で学級経営をするような小学校の先生になりたいなぁと思っていたんですね。小学校教諭とは別に特別支援学校(当時は養護学校)教諭の免許も取っており、実習の現場で関心は持っていたのですが、実際に特別支援学校で教えることになろうとは思いもよりませんでした。
京都先端大学 先生に聞いてみた「多くのことを学んだ特別支援教育の現場。 それは私にとっての、教育の原点。」健康医療学部 健康スポーツ学科 青木 好子教授 最終閲覧日2021/08/13
文部科学省は、特別支援学校の先生の特別支援学校教諭免許保有率100%を目指しており、令和2年5月の調査では、全体で84.9%、知的障害の種別では88.0%と高い保有率でした。参考:文部科学省初等中等教育局特別支援教育課「令和2年度特別支援学校教員の特別支援学校 教諭等免許状保有状況等調査結果の概要」令和3年3月
一方、地域校の特別支援学級においては、平成18年度~平成26年度までずっと30%程度と低めのようです。()参考:文部科学省初等中等教育局特別支援教育課「特別支援学校教諭免許状の保有率の向上・特別支援教育の概要について」平成27年5月15日
特別支援学校教諭免許状の取得方法
特別支援学校教諭を取得できる大学であれば、在学中に(一般的な教員免許取得に必要な単位に加えて)特別支援教育の単位も一定数取得することで、卒業時にその免許状を取得できます。
すでに一般的なの教員免許状を取得後、先生として働きながら文部科学省の定める免許法認定講習や、指定された大学の単位をとりながら取得することもできます。
私は高校に二十年勤務し、特支免許がなくて知的障害部門の特支へ異動した。(中略)特支免許は、認定講習を受け、三年かかって昨年度末に取得することができた。
福岡教育連盟「特別支援学校に関わる人事異動の変更点について考える」金子 達也先生 平成30年8月30日
保育士・幼稚園教諭
こちらも科目履修と施設実習
幼稚園教諭や保育士になるためにも、小学校の教諭と同じような科目(保育士の場合「障害児保育」)と施設実習を履修する必要があります。
施設への実習は小学校教諭よりも長い(約2週間を2回)ですが、対象の施設は小学校教諭の社会福祉施設(5日間の方)と同様です。そのため、全員の先生が障害児と接したことがあるわけではありません。
参考:日本福祉大学 教育・心理学部 子ども発達学科 保育・幼児教育専修>カリキュラム、東京福祉大学>履修モデル、こども學舎>実習について、至学館大学>シラバス基本情報>健康科学部 こども健康・教育学科>保育実習Ⅰ<施設>、保育実習Ⅲ<施設>
障害児保育の知識習得は大変なこと
京都大学の松尾寛子准教授は、保育士への障害児保育科目の教授方法の研究において、保育士を目指す学生が障害児保育の為の知識を全て学ぶことは不可能と述べています。
障害のある子どもを保育するということは、その子どもの障害を理解することに加え、その子どもの特性、保護者の障害受容の程度など、保育士には幅広い知識が求められる。障害は多岐にわたるため、保育士養成施設在籍期間中に学生がそれら全てを学ぶことは不可能である。
神戸常盤大学紀要 第8号「保育士養成施設における障害児保育科目教授方法の比較検討」松尾寛子・三好伸子(2015) p.10
研修などで知識を補っていく
小学校教諭も幼稚園教諭、保育士さんも、普段の業務以外に必要な研修を受けたり、特別支援支援学校や児童発達支援センターなどと連携をとることで、障害児対応について様々な最新情報を学んでいます。
特別支援教育の推進のためには、教員の特別支援教育に関する専門性の向上が不可欠である。したがって、各学校は、校内での研修を実施したり、教員を校外での研修に参加させたりすることにより専門性の向上に努めること。
文部科学省 特別支援教育の在り方に関する特別委員会 論点整理 参考資料12「特別支援教育の推進について(通知)」文部学省初等中等教育局長 銭谷眞美 平成19年4月1日
また、教員は、一定の研修を修了した後でも、より専門性の高い研修を受講したり、自ら最新の情報を収集したりするなどして、継続的に専門性の向上に努めること。
発達障害児を受け入れる際の対応では,「専門機関(病院や療育施設等)と連携をとる」が23名(74%)で最も多く,ついで「園外の研修会に参加する」が22名(71%)であった。「園内で研修会を開く」も17名(55%)と半数を超えていた。発達障害児を受け入れるにあたり,多くの園が何らかの対応をしている傾向がみられた
鹿児島大学医学部保健学科紀要 第22巻 1号 Pp.31-38「発達障害児に関わる保育士・幼稚園教諭の「不安や困りごと」 : 作業療法士の視点から」井上 和博, 河内山 奈央子(2012)
とても大変なお仕事をしながら、多岐にわたる知識を常に学ばれている先生方、頭が下がる思いです。
今回はこの辺で。最後まで読んで下さってありがとうございました!