自閉症の【原因】は?遺伝?妊娠中?予防接種のせい?

自閉症・自閉スペクトラム症の原因は?

自閉症の原因は「遺伝」の他に、「環境」や「ワクチン」など様々な説があります。

今回は、有名な原因の説について、ひとつひとつ見ていきましょう。

はじめに

自閉症と自閉スペクトラム症の違いについては、【自閉症】【自閉スペクトラム症】の違いは?|発達障害、ASD、ADHD などの用語説明もページに詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

遺伝について

自閉症は遺伝なのでしょうか?

大部分を説明できるが、全てではない

自閉症は遺伝するの?

自閉症・精神発達障害のご専門家で遺伝子研修もされているアメリカのウェンディ・チョン(Wendy K. Chung)博士は、遺伝子は自閉症となるリスクのすべてではないが、その大部分を説明できると述べています。1)

ウェンディ・チョン博士
画像はTEDより

家族間での発生確率

チョン博士は遺伝子が自閉症の原因の一つであることを確認する方法の一つに、きょうだいでの一致率をみてみることと述べています。

きょうだいでの一致率確率
一卵性双生児(遺伝情報100%共有・同一の子宮内環境)77%
二卵性双生児(遺伝情報 50%共有・同一の子宮内環境)31%
きょうだい(遺伝情報 50%共有・子宮内環境は同一ではない)20%以下

他にも家族間での発生確率は、多くの研究者によって報告されており、多少差はありますが、多くの研究で近しい数値が報告されています。一例を挙げてみます。

一卵性双生児では1人が発症するともう1人は70~90%の確率で発症、一方、二卵性双生児では0~10%程度というデータがあります。

理研BSI「自閉症に関連する遺伝子異常を発見」2007年3月23日プレスリリース

スウェーデンで200万人に行われた24年間にも及ぶ家族に対するコホート研究(自閉スペクトラム症がいる家族と、いない家族の比較)の相対再現リスク比(何倍発生しやすいか)でも、有意な結果になっています。2)

関係相対再現リスク比
一卵性双生児153
兄弟姉妹10
二卵性双生児8
母方のみ一緒の兄弟姉妹3
父方のみ一緒の兄弟姉妹3
いとこ2

原因となる遺伝子は不明

しかし、自閉症の原因となる遺伝子は、ごく一部を除いて分かっていません。原因が単一な遺伝子なのか、複数を組み合わせたものなのか、という点についても不明です。自閉スペクトラム症に影響される症状は幅広く、関連する遺伝子は約200~400存在すると考えられています。3)

妊娠中について

妊娠しているお母さんがかかる感染症、痛み止めなどの服薬、糖尿病、甲状腺ホルモン不足などが自閉症スペクトラムのリスクを高めることは、多くの研究で明言されています。どの要因も、妊娠後期よりも妊娠初期の方が神経発達に影響を及ぼすことが分かっています。一覧は後述します。

POINT

自閉症は、受胎した瞬間から母親の状態や子宮内環境に影響を受け、非常に速い段階から発症すると言われています。

生まれた後の環境因子では、いくつか報告・研究されていますが、明確になっているものはありません。4)

明確になっているのは、出産前の因子だけです。5)

一番危険度が高そうなのは「お母さんが感染症にかかること」だと思います。妊娠中の風しんやヘルペスウイルスなどの感染症は、自閉症スペクトラムのリスクが大幅に高まると言われています。詳しくまとめておきました↓。

原因となる感染症について

風しん

免疫のない女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群 (CRS)と総称される障がいを引き起こすことがある。

国立感染症研究所「先天性風疹症候群とは

先天性風疹症候群を伴った子どもは、聴力障害、視力障害、心臓障害、その他にも、自閉症、糖尿病、甲状腺機能不全など、生命に関わる身体障害に苦しむ可能性があります。

厚生労働省 検疫所 FORTH「風疹について (ファクトシート)」2018年2月 WHO

風しんの症状は、普通の風邪と区別がつきにくいです。3~5割程度は無症状で、かかりはじめは、鼻水、せき、頭痛や倦怠感という症状です。この時点では、お医者さんでも診察で判断することは出来ません。大人がかかった場合で普通の風邪より酷い症状があるとすれば、数日間の発疹やリンパが腫れるという部分です。発疹は2~3割の人では現れません。

※1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は、集団予防接種の対象外だったため、個別接種を受けていない場合は、注意が必要です。(近年では、2018年に予防接種を受けていない男性を中心に風しんの流行しました)

サイトメガロウイルス感染症

新生児では、CMV感染症が出血、貧血、または肝臓や脳の広範な障害を引き起こすことがあります。生き延びた新生児にも、難聴や知的障害が残ることがあります。

MSDマニュアル 家庭版「サイトメガロウイルス(CMV)感染症」2018年5月

サイトメガロウイルス(CMV)感染症は、ヘルペスウイルスの一種で、ありふれた感染症です。大人の6割~9割は過去にかかった形跡がみられるほどです。かかった本人的には、症状は一般的には特に何もありません。

ただし妊婦さんが感染すると赤ちゃんに少しリスクがあります。赤ちゃんがお腹にいる間のリスクは「流産、死産、新生児の死亡」と書かれています。

自閉症スペクトラムについては、出産時にお母さんから新生児に感染した場合のリスクとして含まれています。

ジカウイルス感染症

2015年から2016年に起こったジカウイルスに感染した母親から生まれた子供の多くが小頭症を発症したという報道は世界を震撼させた。(中略)生まれた時に異常がなくとも、30%以上の子供に脳の発達障害(認知障害、言語障害、運動障害のいずれか)。2歳時点での自閉症も2%にみられ、今後年齢とともに増加することが予想される。

AASJ「7月12日 地道に続けられているジカウイルス感染の追跡調査」2019年7月12日

ジカウイルス感染症は、蚊を介して感染するデング熱に似ている軽い症状の感染症です。無症状のこともあります。

2013年以降、日本国内で感染した症例はありません。

2013年にフランス領ポリネシアのボラボラ島、2014年にタイのサムイ島に旅行した日本人が感染したという報告がありました。厚生労働省とWHOは、妊婦さんや妊娠の可能性のある女性に対しては、流行地域への渡航をすべきでないと勧告しています。参考:厚生労働省「ジカウイルス感染症について

自閉症リスクが高まってしまう項目一覧

  • 母親が妊娠中に感染症にかかること
    • 妊娠中の風しん、ヘルペスウイルス(サイトメガロウイルス(CMV)感染症)、ジカウイルス感染症は、自閉スペクトラム症のリスクが大幅に高まる。
    • 妊娠後期よりも妊娠初期の方が、神経発達に影響を及ぼすことが分かっている。
  • 母親の妊娠中の服薬
    • 抗てんかん薬(バルプロ酸
    • 痛み止め・解熱剤(アセトアミノフェン…例:バファリン、セデスなど)
    • 受胎から最初の8週間に作用するとされている
  • 母親の糖尿病
    • 自閉スペクトラム症のリスク増加と、有意に関連していることが判明している
    • 妊娠する前は糖尿病ではなく妊娠してから糖尿病になる「妊娠糖尿病」の場合は、そのリスクが2倍にもなることが2009年の調査で報告されている
  • 妊娠8?12週目の母親の甲状腺ホルモン不足
    • 甲状腺機能低下症により、サイロキシン(T4,チロキシン)が不足することで胎児の脳が変化し、それが自閉症につながるという説もある
    • 不妊症の検査項目には、甲状腺ホルモンも含まれているなど、妊娠には重要なホルモン
  • 母親の自己免疫疾患、炎症性疾患
    • 胚や胎児組織が損傷し、神経系に影響を与える
    • 2015年の研究では、自己免疫疾患の家族がいる場合は、いない場合と比較して自閉スペクトラム症のリスクが高いことがわかった
  • 母親が妊娠中に摂取した葉酸
    • 自閉スペクトラム症のリスクを減らす可能性がある事が、多くの研究から報告されている

私事ですが。現在14歳になる自閉症児の母である私は、現在ですが、甲状腺ホルモンが足りていない状態(潜在性甲状腺機能低下症)でホルモン補充しています。低下症に気が付いたのは息子が8歳頃なので、妊娠中も甲状腺ホルモンが足りていなかったかどうか、そしてそれが息子の自閉症の原因かどうかは迷宮入り…。低下症は、第二子不妊治療中のホルモン検査によって判明しました。ちなみに服薬でホルモン補充をしながら授かった第二子は定型発達児だと思われます。

予防接種(ワクチン)の噂は?

自閉症はワクチン接種のせいなのでしょうか?

1998年にMMRという三種混合ワクチンが自閉症の原因となる論文が発表され、現在でも自閉症への不安から予防接種を控えさせる親が世界中に多数います。

自閉症とワクチンの関連性については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

昔の噂

1943年にはじめて自閉症を報告・提唱したレオ・カナー医師は、自閉症の原因を冷淡な母親の愛情不足のせいと結論付けていました。

アメリカで最も優れた病院であるジョンズ・ホプキンズ大学において、児童精神医学部門の創設者であるカナーの影響力はとても大きく、何十年にも渡ってその原因について信じられてきました。

しかし、1981年にローナ・ウィング医師により科学的証拠がないと否定されました。その際の論文については、下記ページになります。

自閉症のはじめての報告から、現在に至るまでの自閉症の遷移については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

まとめ

今回は、自閉症・自閉スペクトラム症の原因について、まとめてみました。

自閉スペクトラム症児の親としては、何が原因でそうなってしまったのか、とても気になりますよね。

大部分の原因は遺伝であっても、原因遺伝子はひとつではなく、さらに、全ての原因でもない。一部の自閉症は、妊娠している母親の子宮内環境との関連性が有意であると言われていても、その他は明確になってはいないことが分かりました。

そのために、自閉スペクトラム症においては、世界的に標準化された操作的診断基準が設けられています。

自閉スペクトラム症の診断基準の項目については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

今回はこの辺で。最後まで読んで下さって、ありがとうございました!↓に参考情報載せておきます。

参考・引用情報

1) チョン博士はTED talk「自閉症―分かっていること(と、まだ分かっていないこと)」(2014)で下記のように述べています。

  • 遺伝子は自閉症となるリスクのすべてではない。しかし、その大部分を説明できる。
  • ガンや心臓病に比べて、遺伝子がかなり大きな役割を果たしていることが分かる。
  • 遺伝子に注目する理由は、それが唯一の原因だからではなく、定義しやすく生物学的メカニズムや脳の働きのよりよい理解につながる方法のひとつだからだ。それにより、介入方法を見出すことができる。

2) Sven Sandin, MSc,et al, (2014). “The Familial Risk of Autism. JAMA Network

3) チョン博士は、自閉症の原因となる遺伝子について、下記のように述べています。

  • 一部の自閉症の人は、決定的な単一の、代々家計の中で受け継がれてきた遺伝子によるものである。
  • 他の自閉症の人については、発達の過程でいくつかの遺伝子情報が組み合わさることで発症した。その遺伝子変異は、精子と卵子の中にあった情報だが、家系の中で受け継がれてきたものではなく、本人の中で全く新たに生じたもの
  • その人が、どちらのタイプなのかは、より詳しく調べてみないと分からない。
  • また、原因となる遺伝子は、1つではないことが明らかになった。
  • 自閉症の原因となる遺伝子は、現在200~400あると考えられている。
  • そのため、自閉スペクトラム症という幅広い症状が生じる理由の一部が説明できる。
  • また、自閉症が男性の方が女性より4倍多い原因も、未だに明確になっていない。
多くの自閉症原因遺伝子
多くの異なる遺伝子があるが、遺伝子の多くは共通のメカニズムで一緒に働く

4)

Autism spectrum disorder (ASD) aggregates in families, but the individual risk and to what extent this is caused by genetic factors or shared or nonshared environmental factors remains unresolved.

Sven Sandin, MSc,et al, (2014). “The Familial Risk of Autism"

↑和訳概要:自閉症スペクトラム障害(ASD)は家族に集中しますが、個人のリスクと、これが遺伝的要因または共有または非共有の環境要因によってどの程度引き起こされるかは未解決のままです。