障害児のための【加配】とは?
障害児を通わせる幼稚園や保育所を探していると、よく「加配対応をお願いする」という表現を聞きます。
今回は「そもそも【加配】とは何か?」という用語の説明から、「障害児なので加配対応をしてもらえる」=「障害児対応のエキスパートが保育にあたってくれる?」「障害児のために専属の保育士が終始マンツーマンで見てくれる?」という疑問まで詳しく見ていきましょう。
【加配】の言葉の意味は?
【加配】という用語を知るには、まず下記のことを知る必要があります。
配置という考え方
幼稚園、保育所、認定こども園などの未就学児が通う施設では、施設の規模や預かっている子どもに応じて、職員を「配置」するという考え方をとっています。
職員の配置基準の具体例を見るとイメージしやすいと思います。
- 保育園【児童福祉法最低基準の保育士配置基準(認可保育所)の一例】
- 乳児…概ね3人に対して、保育士1人以上の配置
- 満1歳以上満3歳未満の幼児:概ね6人に対して、保育士1人以上の配置
- 満3歳以上満4歳未満の幼児…概ね20人に対して、保育士1人以上の配置
- 満4歳以上の幼児…概ね30人に対して、保育士1人以上の配置
- 幼稚園【幼稚園設置基準の教諭配置の一例】
- 各学級ごとに少なくとも専任の主幹教諭、指導教諭又は教諭を一人置かなければならない
- ※1学級の幼児数は、35人以下が原則
【加配】の使用例
そんな考え方の中で「加配」とは、障害児に対してのみ使用されるものではなく、一般的に下記のように使用されます。
- 【加配】使用例
- 休けい保育士を1人加配する(定員90人以下は常勤、定員91人以上は非常勤)
- 保育標準時間(最長11時間)認定の場合は、常勤保育士1人及び非常勤保育士(3時間)1人を加配する
これで【加配】という用語の使用方法が分かりましたね。 「加えて配置」する、つまり民間企業でいうところの「増員」「雇用」といったところでしょうか。
障害児に関連する【加配】とは?
障害児に関連する【加配】とは、障害児が通う場所において、障害児保育・教育を行うために、そこに職員を加えて配置するというものです。
国の方針である障害児保育の推進のため、昭和49年から行われている取り組みです。参考:内閣府 平成26年版障害者白書 p.49
必ず【加配職員】が配置される?
この事業は、心身に障害を有する児童(以下「障害児」という。)を保育所に受け入れ、一般の児童とともに集団保育を行うことにより健全な社会性の成長発達等を促進するなど、障害児に対する適切な保育と福祉の増進を図ることを目的とする。
高知県いの町「いの町障害児保育事業費補助金交付要綱」平成27年5月25日教育委員会告示第16号 第2条
上記のような取り組みが昭和の時代からなされているということは、障害児が通う場所には、必ず【加配職員】が配置されるのでしょうか?
そうではない
障害児が通う場所に必ず加配職員が配置されたらとても素敵なことですし、保護者としても大きな安心材料の一つになりますよね。
しかし、現実はそうではありません。
2012年の鹿児島大学によるある市の保育所・幼稚園に対する調査では、発達障害児がクラスに所属していても加配対応をしていないクラスが過半数を超えていました。
発達障害児が所属するクラスについて(中略)保育士・幼稚園教諭の加配状況は,「特に加配していない」が18名(58%)で最も多かった。
鹿児島大学医学部保健学科紀要 第22巻 1号 Pp.31-38「発達障害児に関わる保育士・幼稚園教諭の「不安や困りごと」 : 作業療法士の視点から」井上 和博, 河内山 奈央子(2012)
障害児のための加配は、施設の判断+自治体の最終決定
障害児保育を行うための職員加配や、補助金を支給するかどうかなどは、まず障害児が通っている施設が判断し、必要と判断した場合に園が自治体に申請し、申請された自治体が精査のうえ決定するのです。
このあたりは、園側の障害児の受け入れ経験や、実際に園にいる他の障害児の人数、また自治体の決まりや力の入れ具合、財政状態に左右される部分です。
自治体が行う精査方法の一例としては、例えば保育園では、自治体の担当職員、園の担当保育士、児童相談所の担当者らによる検討会があり、そのような検討会は4割の自治体で開催されています。そのような検討会は、大規模な自治体ほど開催され、小規模な自治体の方が検討会までは開催せずに決定している傾向にあるようです。 参考:みずほ情報総研株式会社「保育所における障害児保育に関する研究報告書」平成 29年3月
加配されない理由は?
ポジティブな理由の場合もある
もちろん経験豊富な先生方、専門的な知識を持った先生方がもともとたくさんいらっしゃる施設では、特に加配職員を配置せずとも障害児を迎え入れても適切な支援を行えるかもしれません。
そうでない理由の場合も
しかし、そのような施設が大半でないことも明白です。
実際、幼稚園教諭や保育士、他にも小学校教諭も最低限の特別支援教育についての知識は学びますが、現実的にすぐに障害児の対応を行える量と質ではありません。詳しくは下記ページをご参考になさってください。
つまり、他に気軽に加配職員を配置できない理由も考えられます。例えば次のような理由もあります。
人件費も一因
国は世界的に推進されている「インクルーシブ教育システム」を実現させるため、 どのような施設でも基本的には障害児を受け入れ、必要に応じた特別支援教育を行いましょうと提言しています。
しかし、だからと言って障害児のための加配職員の人件費を100%補助してくれるわけではないのです。 あくまで補助程度の金額です。 (補助金については後述します)
施設は、補助金をもとに加配職員を雇用
たとえば保育所や認定こども園等の場合、国は、障害児を受け入れる施設から申請があり、かつ、要件を満たしている場合、都道府県に補助金を交付します。
そして都道府県は市区町村へ、さらに市区町村が施設へ、独自の予算に加えて国からの補助金も充てて、補助金を交付するのです。
その補助金ではとても人件費をまかなえない
施設に交付される補助金は、他の用途ではなく、必ず障害児に対する支援のために使用されなくてはいけません。
しかし、加配職員を配置するための人件費を100%カバーできる金額ではないうえに、交付の前提条件にもなる施設の修繕や職員の研修のためにもその費用を充てないといけず、予算に余裕のある施設でないと加配職員を配置することが難しいことが分かります。
【加配】されても「1:1」「有資格者」とは限らない
園を利用する前だとイメージしづらく、よく下記のように勘違いされやすいです。
障害児なので加配対応をしてもらえる
↓
障害児対応のエキスパートが保育にあたってくれる?
障害児のために専属の保育士が終始マンツーマンで見てくれる?
以下では、この辺りの疑問についての情報を、下記で詳しく見ています。
障害児:加配職員=「1:1とは限らない」件について
園に【加配職員】が配置されることが決定されたとしても、対象の児童に専属の【加配職員】が1:1でつくとは限りません。
【加配職員】の配置基準は自治体による
内閣府子ども・子育て本部が提示した『子ども・子育て支援新制度』では、障害児保育を推進する取り組みの一つとして障害児2名につき保育士1名を水準として配置するよう記載されています。
日本教育新聞「加配保育士の役割と障害のある子どもに対する国の支援策」2020年11月4日
内閣府としては上記を基準としていますが、実際の加配職員の配置基準は、自治体によって異なります。
例1
例えば福岡県那珂川市では、下記のように定められています。
- 重度障害児の場合…児童1人に対して保育士1人
- 軽度障害児の場合…児童複数人に対して保育士1人
(保育士配置の要件)
福岡県那珂川市「那珂川市障害児保育事業費補助金交付要綱」平成19年12月28日要綱第83号
第6条 第4条に規定する保育士又は臨時的介助員の雇用人数は、次の各号の状況による配置を原則とし、当該障害児を受け入れる対象施設と市長が事前に協議を行い決定するものとする。
[第4条]
(1) 身体障害者手帳1級又は療育手帳のAに相当する児童であって、特に当該児童に専属の保育士が必要と認められる者については、児童1人に対し保育士1人
(2) 身体障害者手帳2級又は療育手帳のBに相当する児童であって、特に専属の保育士が必要と認められる者については、児童複数人に対し保育士1人
2 前項第2号に該当する児童で、専属保育士の配置が必要な児童が当該対象施設で最初又は1人の場合、児童が複数でなくても保育士を配置することができる。
例2
一方、前述した「対象となる障害児は?」の項目で対象児童の引用をした茨城県つくばみらい市では、障害の程度を問わず、下記のように定めています。
- 対象の児童1人に対して保育士1人
「基準を設けていない」市区町村が最多
平成28年に厚生労働省の「子ども・子育て支援推進調査研究事業」で作成された報告書では、市区町村に対して「【加配職員】の配置基準を定めているかどうか」のアンケート結果として下記のように報告しています。
- 具体的な基準は設けていない:42.5%
- 障害の程度を問わず、一律の配置基準を設けている:28.0%(※追加アンケートあり、下記参照)
- 障害の程度で基準が異なる市区町村:22.4%
参考:みずほ情報総研株式会社「保育所における障害児保育に関する研究報告書」平成 29年3月
一律の基準がある場合、「1:1」~「3:1」が多い
同報告書では、28.0%の「障害の程度を問わず一律の基準を設けている」の具体的な基準と割合を下記のように報告しています。
- 障害児 1人:保育士1人…34.3%
- 障害児 2人:保育士1人…19.7%
- 障害児 3人:保育士1人…23.0%
- 障害児 4人:保育士1人…5.8%
- その他…15.7%
- (障害児数は概ねの人数)
さらに、上記のように自治体ごとに決められた基準の他にも、園の状況などにより、実際どうなるかは異なることもあります。
実際の対応:「専任の保育士だけに任せている」3.3%のみ
上記はあくまで【加配】する職員の人数の基準です。現場では、【加配】された職員を含め、園全体の児童と先生の割り振りを考え、適宜対応にあたることになります。
初めて障害児を受け入れる園、慣れている園、たくさんの障害児を受け入れている園でも対応は異なります。
ちなみに、厚生労働省の事業における平成27年度の保育所に対する全国的な調査報告では、障害児の保育に対し、「専任の保育士だけに任せている」と回答した園はわずか3.3%でした。
障害児がいると回答した保育所における障害児の保育体制についてみると、全体の約8割(81.4%)の保育所で「担当保育士を複数配置しチームで保育している」と回答している。「その他」という回答も10.5%と多いが、内容(自由記述)としては、いわゆる「気になる子」における対応と同様に、担当保育士に補助人員(加配保育士等)を配置し対応しているケースや、担当は決めず保育所職員全員で対応するというケースが多くみられた。
厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業 平成27年度「保育所における障害児やいわゆる「気になる子」等の受入れ実態、障害児保育等のその支援の内容、居宅訪問型保育の利用実態に関する調査研究報告書」社会福祉法人 日本保育協会
他の「気になる子」も複数名在園している
さらに園には「障害と診断されないまでも気になる子」や「保護者が障害児とは思っていない(申告がない)子」も一定数存在していることが、厚生労働省の事業における全国的な調査で明らかになっています。
調査対象の保育所すべてに対し、いわゆる「気になる子」がいるかどうかたずねたところ、全体の9割以上(92.7%)の保育所で「気になる子」がいると回答している。
厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業 平成27年度「保育所における障害児やいわゆる「気になる子」等の受入れ実態、障害児保育等のその支援の内容、居宅訪問型保育の利用実態に関する調査研究報告書」社会福祉法人 日本保育協会
そのような子たちの対応も大変なため、園は、保護者から障害の申告がない場合でも、自治体に職員加配や補助金支給を申請していることが多いです。
保護者からの申し出がない場合であっても市区町村から職員加配や補助金支給が行われているケースが、公立保育所については 5 割強、民間保育所についても 2 割強見られた。一方、4 割弱の自治体では、保護者からの申し出がない場合には、職員加配や補助金支給は行っていないという回答があった。
厚生労働省 子ども・子育て支援推進調査研究事業 平成28年度「障害児保育に関する調査研究報告書」みずほ情報総研株式会社 平成29年3月
しかし、基本的には補助金は障害児が対象
自治体によっても異なりますが、下記を対象にしている場合が多いです。
- 特別児童扶養手当が支給されている子
- 身体障害者手帳を取得している子
- 療育手帳を取得している子
- 精神障害者保健福祉手帳を取得している子
- 上記手帳を取得していなくても、児童相談所、専門医その他公的機関の証明書、診断書、意見書などにより、障害者手帳の取得と同程度と自治体が認めた子
(対象児童)
茨城県つくばみらい市「つくばみらい市障がい児保育対策事業費補助金交付要綱」令和2年3月19日 告示第51―1号
第2条 補助金の対象となる児童は,保育を必要とする障がい児(集団生活が可能であり,かつ日々通所可能な者に限る。)であって,次の各号のいずれかに該当するものとする。
(1) 重度障がい児 特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号)に基づく,特別児童扶養手当の支給対象児童(所得により手当の支給を停止されている場合を含む。)
(2) 軽度障がい児
ア 前号に該当しない身体障害者手帳又は療育手帳を所持している児童
イ 児童相談所の心理判定員又は医療機関等の医師により,同号アに規定する児童と同程度の障がいを有すると判定された児童
ウ その他市長が認めた児童
よって「気になる子」として申請をしても、場合によっては却下される場合もあります。
つまり、マンツーマンでの対応は恵まれている
このようなことを考えると、対象の児童に専属の【加配職員】を専任としてマンツーマンで対応するのがいかに難しいかが分かります。
【加配】の対象となる児童が一つの園に複数人在籍していることも十分に考えられ、さらに前述した「【加配職員】の配置基準」からもお分かりいただけるように、わが子だけにマンツーマンで加配の先生が付きっ切りで支援してもらえるという環境は、非常に恵まれたケースである
加配職員=「有資格者とは限らない」件について|補助金について
補助金が大きく関連している
加配職員を配置するためには、人件費についても大変だということは前述した通りですが、その補助金は、全ての施設に対し一律で給付というものではありません。
施設の種別や障害児の程度によって、金額、補助金のための加算の種類、さらに加算対象のとなる「加配職員の資格の必要性」も異なります。(詳しくは「障害児の加配【参考資料】補助金の加算種別・金額|加配職員の資格の有無」ページに詳しくまとめました。)
無資格でも補助金の対象となる場合は、無資格の職員を加配することが多い
そのため、 加配職員に保育士資格や幼稚園教諭資格が必要ない場合には、資格のない人を配置することがほとんどです。
さいごに
今回は障害児のための【加配】について、用語の説明から実際の加配の状況について見てきました。
障害児の親としては、マンツーマンで補助の先生を付けてもらいたいものですが、もしそのように対応してもらえたらとても恵まれた環境であることが分かりました。
今回はこの辺で。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!