ICD、DSMは「広汎性発達障害」から「自閉スペクトラム症」へ
【広汎性発達障害】と【自閉スペクトラム症】の関係性は、精神障害の世界的な操作的診断基準である【ICD】と【DSM】内での使われ方を見るとよく分かります。
広汎性発達障害とは?
【自閉スペクトラム症】導入前が【広汎性発達障害】
「広汎性発達障害」は、自閉スペクトラム症(ASD)という概念が導入される前の、自閉症の親カテゴリーとして使用されていた用語です。
ICDとDSMでの分類表記
国際疾病分類表であるICDとDSMでの「広汎性発達障害」の分類表記です。
ICD-10
- F84 広汎性発達障害
- F84.0 自閉症
- F84.1 否定型自閉症
- F84.2 レット症候群
- F84.3 その他の小児<児童>期崩壊性障害
- F84.4 知的障害<精神遅滞>と常同運動に関連した可動性障害
- F84.5 アスペルガー症候群
- F84.8 その他の広汎性発達障害
- F84.9 広汎性発達障害、詳細不明
DSM-Ⅳ
- 299 広汎性発達障害
- 299.00 自閉性障害
- 299.80 アスペルガー障害
- 299.80 特定不能の広汎性発達障害
- 299.10 小児期崩壊性障害
- 299.80 レット障害
最新バージョンに載っている?
ICD、DSMともに最新バージョンには載っていません。ICD-11(2022年2月WHO発効)
診断基準
もう古い概念なのですが、ICD-10の広汎性発達障害の診断基準を書いてあるページがあるので、リンクを貼っておきます。新しい概念の自閉症スペクトラムの診断基準も載せていますので、ご参考になれば幸いです。
DSM-5から消えた
「自閉スペクトラム症」の初導入
「自閉スペクトラム症」は2013年に発効されたDSM-5から使用されています。これをきっかけに自閉スペクトラム症という概念・言葉が世界に広く知れ渡るようになり現在に至ります。
DSMから「広汎性発達障害」が消えた
DSM-5での【自閉スペクトラム症】の導入は、DSM-Ⅳ(4) での 自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害、小児崩壊性障害 の4つの小分類を含む「広汎性発達障害」のカテゴリー名を「自閉スペクトラム症」のカテゴリー名へ変更した形で行われました。
※レット障害については、原因が遺伝子(X染色体の異常:MeCP2異常)が特定されたため、広汎性発達障害からは除外されました。
そのことにより、広汎性発達障害という文言は、DSMから消えました。
DSM-IVでは自閉性障害(299.00)やアスペルガー障害(299.80),小児期崩壊性障害(299.10)などのサブカテゴリーを含みPDDと呼ばれていたものが,DSM-5ではASD(299.00)という1つの診断名に統合された.
日本精神神経学会 精神経誌 123(4)「ICD-11における神経発達症群の診断について―ICD-10との相違点から考える―」森野百合子 他
【自閉スペクトラム症】Autism Spectrum Disorder(ASD)という言葉と概念自体は、アスペルガー症候群の名付け親でもあるイギリスの精神科医ローナ・ウィング医師のよって1998年には提唱されていました。
彼女自身も重度自閉症児の親でもあり、熱心な研究の成果です。
詳しくは「自閉症|80年の歴史まとめ」ページページで説明しています。
ICD-11から消えた
ICD-11が2022年に発効されました
1990年に発効されたICD-10が最新版だったICDですが、ついに2022年2月、WHOによりICD-11が発効されました。日本語版は現在準備中のようです。参考:公益社団法人 日本精神神経学会「連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ」更新日時:2024年2月5日
日本語版は準備中のようです。WHOが2018年6月にを公表したICD-11は、日本でも2019年5月に厚労省からWHOへ提出した和訳版が承認され、それから厚労省・総務省が国内適用のために作業しているようです。参考:厚生労働省サイト「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました」, 厚生労働省サイト「ICD-11 の日本への適用について」
「自閉スペクトラム症」へ
ICD-11では「広汎性発達障害」表記はなくなり、「自閉症スペクトラム」と変更されました。(英語表記は「Autism spectrum disorder」、日本語表記の案としては「自閉スペクトラム症」)
診断名も「広汎性発達障害」(ICD-10)から「自閉スペクトラム症」へと(中略)変更になっている
精神神経学雑誌「ICD-11における神経発達症群の診断について―ICD-10との相違点から考える―」成増厚生病院精神科 森野百合子 他
- 自閉スペクトラム症(1.3)
- 1.3.1 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語の不全がない、または軽度の不全を伴う
- 1.3.2 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語の不全がない、または軽度の不全を伴う
- 1.3.3 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語の不全を伴う
- 1.3.4 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語の不全を伴う
- 1.3.5 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語がみられない
- 1.3.6 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語がみられない
- 1.3.7 自閉スペクトラム症、他の特定される
- 1.3.8 自閉スペクトラム症、特定不能
参考:公益社団法人 日本精神神経学会
さいごに
今回は、ICD-10、DSM-Ⅳ、DSM-5、ICD-11においての「広汎性発達障害」「自閉スペクトラム症」の移行歴を見てきました。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました!