広汎性発達障害→自閉スペクトラム症への移行歴(ICDとDSM)

2020年11月24日

ICDとDSMにおける、広汎性発達障害と自閉スペクトラム症の使用歴

【広汎性発達障害】と【自閉スペクトラム症】、この2つの関係性は、精神障害の世界的な操作的診断基準である【ICD】と【DSM】内での使われ方を見ることで明白になります。

実はこの【ICD】【DSM】の最新バージョンは、発行時期が23年間の差もあるのをご存知ですか?

その23年間という長い期間は、原因が明確になっていない自閉症分野においては、情報が非常に変化した期間でもあるのです。

そのために、【自閉症に関連する用語】は多様化し、診断時期によっても診断名が異なるなど、一般の人にとっては混乱する事態を招いています。

そこで今回は、ICD-10、DSM-Ⅳ、DSM-5、ICD-11においての【広汎性発達障害】【自閉スペクトラム症】の使用歴を見ていくことで、【広汎性発達障害】と【自閉スペクトラム症】の関係性をはっきりさせていきます。

はじめに【ICD】【DSM】とは?

2つの操作的診断基準

【ICD】も【DSM】も、自閉症・自閉スペクトラム症の診断基準などが書かれているものなのですが、詳しくは下記ページにて解説していますので、そちらも併せてご覧ください。

最新バージョンは、ICD-10(1990年)、DSM-5(2013)年です。

【自閉スペクトラム症】導入前が【広汎性発達障害】

広汎性発達障害は、後述する【自閉スペクトラム症】という概念が導入される前の、自閉症親カテゴリーとして使用されていた用語です。

新しいところでは、ICD-10DSM-Ⅳ(1994年)で使用されています。

DSM-Ⅳ での【広汎性発達障害】

  • 299 広汎性発達障害
    • 299.00 自閉性障害
    • 299.80 アスペルガー障害
    • 299.80 特定不能の広汎性発達障害
    • 299.10 小児期崩壊性障害
    • 299.80 レット障害

ICD-10 での【広汎性発達障害】

  • F84 広汎性発達障害
    • F84.0 自閉症
    • F84.1 否定型自閉症
    • F84.2 レット症候群
    • F84.3 その他の小児<児童>期崩壊性障害 
    • F84.4 知的障害<精神遅滞>と常同運動に関連した可動性障害
    • F84.5 アスペルガー症候群
    • F84.8 その他の広汎性発達障害
    • F84.9 広汎性発達障害、詳細不明
ICD-10_広汎性発達障害

【自閉スペクトラム症】は【DSM-5】ではじめて使用された

【自閉スペクトラム症】は2013年に発効された【DSM-5】ではじめて使用されましたが、それより15年も前に提唱されていた概念でした。

【自閉スペクトラム症】は1998年に提唱された

【自閉スペクトラム症】Autism Spectrum Disorder(ASD)という概念・言葉は、アスペルガー症候群の名付け親でもあるイギリスの精神科医ローナ・ウィング医師が1998年に世界ではじめて提唱したものです。

彼女自身も重度自閉症児の親でもあり、熱心な研究の結果、自閉症は連続体(スペクトラム)としてとらえなければならないと明らかにし、【自閉スペクトラム症】を提唱しました。

もともと自閉症自体が定義されたのが、約80年程前と歴史が浅く、そのため認識や用語も様々変化しています。【自閉スペクトラム症】の提唱は、その最たる変化とも言えます。詳しくは下記ページで説明していますので、ぜひ併せてご覧ください。

2013年にAPAが認め【DSM-5】で採用

アメリカ精神医学会(APA)は、ローナ・ウィング医師の主張を認め、約10年ごとの改訂時期である 2013年DSM-5 発行時に初めて【自閉スペクトラム症】の概念を導入しました。

これをきっかけに【自閉スペクトラム症】という概念・言葉が世界に広く知れ渡ったのです。

【DSM-5】から【広汎性発達障害】が消えた

DSM-5では自閉スペクトラム症となる

DSM-5での【自閉スペクトラム症】の導入は、DSM-Ⅳ(4) での 自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害、小児崩壊性障害 の4つの小分類を含む【広汎性発達障害】のカテゴリー名を【自閉スペクトラム症】のカテゴリー名へ変更した形で行われました。

※レット障害については、原因が遺伝子(X染色体の異常:MeCP2異常)が特定されたため、広汎性発達障害からは除外されました。

そのことにより、広汎性発達障害】という文言は【DSM-5からなくなりました

POINT

【DSM-5】では、【自閉スペクトラム症】の導入に伴い、【広汎性発達障害】という文言が消えた

【ICD-10】に【自閉スペクトラム症】は まだない

もうひとつの自閉症の操作的診断基準である【ICD-10】には【自閉スペクトラム症】という文言は一切使用されていません。

【ICD】の最新版であるICD-10の発効から、【DSM】の最新版であるDSM-5(2020年時点で操作的診断基準として最新)までを時系列で分かりやすく書くと、下記のようになるからです。

1990年からの時系列

  • 1990年 WHO により ICD-10 発効
  • 1994年 アメリカ精神医学会 が DMS-Ⅳ(4) 出版
  • 1998年 ローナ・ウィング医師が「自閉スペクトラム症」提唱
  • 2013年 アメリカ精神医学会 が DMS-5 出版

最新版の差は23年

もうおわかりでしょうか?

この【ICD】【DSM】の改訂時期の差が大きいことが、素人にとっては混乱する大きな一因となっていたのです。

【ICD-10】も【DSM-5】も、国際的で行政でも医療機関でも使用されているものです。医師が患者への説明する際や、専門家が資料などを作成する時に【ICD-10】と【DSM-5】のどちらの用語を使用するかは、規約がないので、その方々次第になります。(診断書の作成は【ICD-10】に準拠します)

なので、その経緯を知らない者にとっては、用語が多様化されもうこの呼び方はしないの!?」や「自閉症と自閉スペクトラム症って違うの?同じなの?」のような、混乱の原因となっているのです。

POINT

世界的な2つの操作的診断基準の最新版において、自閉症に関わる分類が、片方が【自閉スペクトラム症】、もう一方が【広汎性発達障害】なので、混乱する原因となっている

【ICD-11】では 【広汎性発達障害】→【自閉スペクトラム症】となる

ICD-11では「自閉スペクトラム症」となる

【ICD-11】は 2022年 正式発効 予定

そんな少し古くなった【ICD-10】ですが、すでに WHO は2018年6月に【ICD-11】を公表しています。

日本でも2019年5月に、厚労省から WHO へ提出した和訳版が承認され、2022年 WHO正式発効に向けて厚労省・総務省が国内適用のために作業中です。

参考:厚生労働省サイト「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました, 厚生労働省サイト「ICD-11 の日本への適用について

【広汎性発達障害】→【自閉スペクトラム症】へ

【ICD-11】では【広汎性発達障害】表記はなくなり、英語表記は「Autism spectrum disorder」、日本語表記の案としては【自閉スペクトラム症】と変更される予定です。

【ICD-11】での【自閉スペクトラム症】

【ICD-11】での 自閉スペクトラム症 の小分類についても、アメリカ精神医学会の DSM-5 同様「自閉症」「アスペルガー症候群」などの表記はなくなり下記のようになる予定です。

  • 自閉スペクトラム症(1.3)
    • 1.3.1 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語の不全がない、または軽度の不全を伴う
    • 1.3.2 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語の不全がない、または軽度の不全を伴う
    • 1.3.3 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語の不全を伴う
    • 1.3.4 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語の不全を伴う
    • 1.3.5 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴わない、かつ機能的言語がみられない
    • 1.3.6 自閉スペクトラム症、知的発達症を伴う、かつ機能的言語がみられない
    • 1.3.7 自閉スペクトラム症、他の特定される
    • 1.3.8 自閉スペクトラム症、特定不能

参考:公益社団法人 日本精神神経学会

まとめ

今回は、ICD-10、DSM-Ⅳ、DSM-5、ICD-11においての【広汎性発達障害】【自閉スペクトラム症】の移行歴を見てきました。

【広汎性発達障害】【自閉スペクトラム症】の概念がなんとなく混乱し、分かりにくい原因も分かりましたね。

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!