【参考資料】自尊感情の【構成要素】は?
学びの土台であり、人間関係にも影響を及ぼす自尊感情。子どもの自尊感情を育むためには、それがどこから湧いてくるのか、どんな要素で成り立っているのか知る必要があります。
自尊感情の構成要素は研究者によって表記は異なりますが、実質的には大きな違いはありません。今回はそんな各構成要素について解説していきます。
「自己肯定感」と「自己受容」でできている
城南学園城南保育園主任の八重津史子先生は、自尊感情は「自己肯定感」と「自己受容」でできていると述べています。1)
次に「自己受容」と「自己肯定感」がどのようなものか詳しく見ていきましょう。
自己受容
自己受容とは、自己否定感・運命を含めて、ありのままの自分を受け入れることです。自尊感情の構成要因の一つである「自己肯定感」の土台となる感情です。
研究者により多少の定義は異なりますが、下記のように思えることです。
- 自分は今のままでもいいんだ
- 今のままで生きていてもいい
- 短所もあるが自分のことが大好きだ
自己受容(Self-acceptance)とは、あなたが今置かれている状況を愛し、満足することである。いまの時点の自分を、評価し、検証し、受け入れ、サポートすることを、自分自身と合意することである
Wikipedia「アクセプタンス」より引用
他者から【受容される体験】が必要
早稲田大学教育学部の河村茂雄教授は、自己受容ができている人とは、今までに十分他者から受容される体験をしている人であり、その中で自分は自分でいいと等身大の自分が受容できるのであると述べています。
ありのままの自分を見つめることが必要
岐阜大学の有村久春大学院教授は、自己受容を、自己を認識していく際に、自分のあり様や心、自らの姿をあるがままに肯定し受け容れることである。ありのままの自分の姿を見つめることが、自己受容の第一歩であり、この見つめ方が自分のよさを肯定し、自分のかけがえのなさを認識することにつながると述べています。
精神的健康のために必要
コロラド大学ボルダー校教育学部の元学部長である著名なロリー・シェパード(Lorrie A. Shepard)教授は、自己受容は個人の自己満足または幸福であり、精神的健康のために必要であると述べています。
自己肯定感
「自己肯定感」という言葉は、立命館大学名誉教授の高垣忠一郎教授が提唱しました。高垣教授は、自己肯定感は「自分自身のあり方を肯定する気持ちであり、自分のことを好きである気持ち」としています。
自己肯定感は、自己否定感と対極にあり、自分の存在意義を認め積極的に評価できる感情です。参考:Weblio辞書「自己肯定感」
また、精神病理学や児童思春期精神医療をご専門としている精神科医の明橋大二医師は、自己肯定感を「自分は大切な人間だ」「自分は生きている価値がある」「自分は必要な人間だ」という気持ちであると説明しています。
低いと、成功しても否定的な考えが…
幼少期に虐待や親からいつも否定的な態度をとられていると、この自己肯定感は健全には育まれません。
「自分はこのままではだめだ」「自分は生きていてはいけないんだ」と常に思ってしまいます。
すると、大人になっても心の中にはいつも(実際にはそばにいなくても)親のような監視されるような気持ちがあり、成功をしても「もっと頑張らないと」「自分はもっとやらなきゃだめだ」と自己否定感にかき消されます。
そうなると負のループから抜け出せなくなり、対人関係や社会生活にまで影響が出てしまいます。
参考情報・文献の引用
1) 構成因子
幼児の自尊感情は、自分はありのままで大切な存在であると感じている自己肯定感因子、できないことがあっても、失敗してもそのことも含めて必要な存在であると感じている自己受容因子で構成されていることがわかった
大阪総合保育大学紀要 第 12 号(2017) p.104「幼児期における自尊感情を育てる取り組み―保育・教育現場における行事や活動を通して―」城南学園城南保育園 八重津史子
さいごに
子どもの自尊感情を高めるためには、これらのことを理解して子どもと接していきたいですね。具体的な接し方や、その他自尊感情を高めるために必要な情報も下記ページにまとめていますので、是非あわせてご覧ください。
今回も読んで下さって、ありがとうございました!その他の研究についても自分のメモとして下記にメモしておきます。長いですが、ご興味のある方はどうぞ。
【参考】その他の研究
自尊感情の構成要素についての他の研究について簡単にご説明します。
ポープ准教授の意見
セントジョンズ大学心理学部で発達心理病理学をご専門としているアリス・W・ポープ(Alice W. Pope)准教授は、邦訳もされている「SELF-ESTEEM ENHANCEMENT WITH CHIKLDREN AND ADOLESCENTES」(1988)で自尊感情の構成要素を社会的領域、学業的領域、家族、身体イメージ、全体的自尊心の5つであるとしています。
これは次に説明する大阪大学の池田寛教授の概念と多くが共通しています。
池田助教授の意見
「学力と自己概念:人権教育・解放教育の新たなパラダイム」(2000)の著者である大阪大学人間科学部の池田寛教授は、自尊感情の構成概念を包み込まれ感覚、社交性感覚、自己効力感、自己受容感覚の4つとしています。
包み込まれ感覚
自分の身近にいる人が自分を温かく包み込んでくれている、自分を愛してくれているなど、誰かが自分の気持ちを分かってくれているという気持ちのこと。ポープ准教授の言う「家族」と重なります。
社交性感覚
友達の言った事は自分はよく分かる、自分の言った事は友達がよく分かってくれる、という友達との心
の通じ合いが出来ているという気持ちのこと。ポープ准教授の言う「社会的領域」と重なります。
自己効力感(勤勉性感覚)
自分はコツコツ努力する人間であり、何かをやりはじめたら最後までやり通すのだという気持ちのこと。ポープ准教授の言う「学業的領域」と重なります。
● 池田助教授によると
池田教授は自己効力感と学力が相関関係にあると述べ、それを育むためには「達成体験」「成長のモデル」「目標をもつ」「周りの人間のフィードバック」の4つの条件が必要としています。
- 達成体験…問題・課題をクリアした際に、その行為を意味付けし、そこまでの頑張りを肯定的に評価する
- 成長のモデル…子どもの身近にいる親や教師、友人などの(自己効力感をもっている)他者をモデルとする
- 目標をもつ…今の自分が努力することで達成できる「身近な目標」を設定させる
- 周りの人間のフィードバック…自分の行為の意味について理解するために、自分の行為に対する周りからの言葉(叱られたり、頼られたり、感謝されたり)が大切
● 河地教授によると
慶応義塾大学経済学部の教授でいらした河地和子氏は、「自己効力感」について「自信」と表現しています。
自信度が高い子どもたちの傾向として、勉強やクラブ活動に対して目標・目的をもって熱心に取り組み、自信を持っていることから、やりがいを感じると述べています。当然、挫折や困難を感じる経験もしたと思われるが、周りの大人からの価値付けや肯定的評価などにより、自分自身の価値を見出していったとしています。
また、自分の将来を相談する人数が多ければ「自信」度が高く、「人数が増えるに従って、自信度も高くなった」と述べています。多様な他者とつながるためには、多様な体験や他者との出会いが必要であるとしています。
さらに、学習面では、授業中に質問・発言する子どもほど自信度が高いと述べいます。それは質問・発言が出来る学習環境が備わっているということであり、質問・発言を教員が受容してくれることにより自分が受け入れられていると感じ、授業に積極的に参加している自分に自信を持っていることから生じたとしています。
● 高知教育センターによると
上述の池田教授や河地教授の研究から、自己効力感を高めるには下記の5つが重要と述べています。
- 目標・目的を持たせる
- 「意味ある体験」により多くの人と繋がる
- 子ども主体の授業と「できた」という達成感を持たせる
- 子どもの行為へのフィードバックを行う
- 成長のモデルを大人が示す
自己受容感
前述の「自己受容とは?」項目をご参照ください。ポープ准教授の言う「全体的自尊心」「身体イメージ」と重なります。
鹿児島県総合教育センターでの意見
伊佐市立大口東小学校の安樂 朋陽教諭は、鹿児島県総合教育センターの平成23年度長期研修研究報告書「子どもの自尊感情を育てる道徳学習の在り方」で自尊感情の構成要素を自己肯定感、自己効力感、自己有用感、自己存在感、自己成長感、自己充実感、他者からの受容感の7つとしています。
自己肯定感
前述の「自己肯定感とは?」項目をご参照ください。
自己効力感
前述の「自己効力感(勤勉性感覚)」項目をご参照ください。
自己有用感
他者の存在を前提として、自分は他人のために役立つ人間だと自己を評価する気持ちのことです。
「自己有用感」は、他人の役に立った、他人に喜んでもらえた、…等、相手の存在なしには生まれてこない点で、「自尊感情」や「自己肯定感」等の語とは異なります。
文部科学省 国立教育政策研究所「生徒指導リーフ 「自尊感情」?それとも、「自己有用感」 ?」
自己存在感
自分は価値があって、他者から認められていると自己を評価する気持ちのことです。
広島市立井口台小学校の笠井典子教諭は、自己存在感を高めるためには、他者からの受容の経験の繰り返しによって自己受容を高めていくことが必要であると述べています。
自己存在感とは,自分を価値のあるもの,かけがえのない存在として認め,集団の中で居場所があると感じる気持ちである。それは学校においては,学級集団の中で人とかかわることを通して自分を知り,自分を受け容れ,自分を肯定的にとらえることができたときに感得することができる。
広島市教育センター研究報告(2005)Pp.17-24「児童の自己存在感を高める指導法の工夫に関する研究―構成的グループ・エンカウンターのシェアリングにおける援助に視点を当てて―」広島市立井口台小学校 笠井典子 教諭 p.17
自己成長感
自分は出来るようになった事があるなど、自己を成長している人間だと評価する気持ちのことです。
自己充実感
自分は何かを頑張っており、自己が充実していると評価するする気持ちのことです。
他者からの受容感
自分が他者に受け入れられているという感覚のことであり、自己受容と表裏一体・相互扶助の関係にあります。
前述の有村久春岐阜大学院教授は、自分が他者に受容される経験の積み重ねによって、自己の受容に気付き、より高次の自己受容が促進されると述べています
前述した通り、早稲田大学教育学部の河村茂雄教授は、自己受容ができている人とは、いままでに十分他者から受容される体験をしている人であると述べています。
以上です!ありがとうございました。