【障害受容】有名な3つの受容モデルまとめ|参考資料

障害受容モデルまとめ

障害受容に至るまでの心情変化の過程にはいろいろな仮説があります。今回は、有名な3つの障害受容モデルについて、概要、どの障害に対して研究された仮設なのかなどをまとめておきます。

段階的モデル:ダウン症候群など

障害受容_段階的モデル

段階的モデル…最初はとてもショックで否認もするけれど、徐々に受け入れることが出来るようになってきて、最終的には再起をするという仮説

ダウン症候群や先天性奇形の子どもの誕生に対する親の適応過程の研究から生まれました。今では人の死に対する障害受容のモデルとしてもよく用いられています。

具体的には、下記5段階の心情の変化を踏んで、再起にたどり着きます。1)

  • 第一段階 ショック(極度の精神的混乱)
  • 第二段階 否認
  • 第三段階 悲しみと怒り
  • 第四段階 適応
  • 第五段階 再起

1975年にアメリカのデニス・ドローター(Dennis D. Drotar)小児科医が提唱しました。有名な障害受容モデルの1つです。

この段階的モデルは、自閉症スペクトラムや知的障害の子の親には当てはまらないと多くの研究者が結論付けています。理由は下記ページで解説しています。

慢性的悲哀:知的障害など

障害受容_慢性的悲哀説

知的障害の親の反応

慢性的悲哀説…「知的障害のある子どもを持つことの大多数の親の反応は『慢性的な悲しみ』である」とまとめた障害受容モデル

1962年、アメリカの小児発達クリニックのサイモン・オルシャンスキー(Simon Olshansky)医師が提唱しました。2)

その後の研究でも、大半の知的障害児の親が慢性的悲哀の状態であると実証的に確認されているようです。3)

周囲も親のその気持ちを受け止めるべき

上記の段階的モデルの最後に「再起」するという考えとは逆の考えです。

慢性的悲哀は自然な反応であり、それが続くことは病的なことではないし、周囲は親の慢性的な悲哀をそのまま受け止めるべきという考えです。4)

「今の悲しみを乗り越えて!」と強制してしまっては、親が自分の感情を表に出すことが出来なくなってしまうからです。5)

螺旋形モデル:障害種別にとらわれない

障害受容_螺旋形モデル

螺旋形モデル…親は、子どもの障害についての肯定的な気持ちと否定する気持ちが常にあって、交互に現われるという考え方

  • 先述した「段階的モデル」「慢性的悲哀」を統合した障害受容のモデル
  • 障害種別については限定していない
  • 発達障害と家族支援について長く研究をされている立正大学心理学部の中田洋二郎名誉教授が1995年に提唱し、スタンダードになっている

否定する気持ちも受容の過程

螺旋形モデルは、親が子どもの障害を否定する気持ちも「障害受容の過程」6)であり、自然な反応と受け止めるべきであるとした考え方です。7)

何度も乗り越えることで価値観が変わっていく

その心痛を何度も自分の努力で克服することで、人生の価値観が変わっていくと中田教授は述べています。

人生の価値に対する質的な変革が生じるのは,慢性的悲哀を通して家族が幾度も心痛を経験しまた幾度もそれを自らの努力で克服するからである。

中田洋二郎 (1995年)

受け入れたと思っても…

中田教授は、子どもが自閉症スペクトラムや知的障害の場合、親は障害を認めた後でも、外部の条件や場合によっては「悲哀」が呼び覚まされることがあると述べています。

回復し表面では適応していても,悲哀が常に内面にあり,状況によって再燃する。

中田洋二郎 (1995年)

このような落胆と回復の過程の繰り返しは、慢性的悲哀の概念に近い状態のようです。

さいごに

障害受容において有名な段階的モデル、慢性的悲哀説、螺旋形モデルについて簡単にまとめました。

どなたかのご参考になれば幸いです。

その他の障害受容の情報は、下記ページをご覧ください。

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

参考・引用情報

1) Drotar D, Baskiewicz A, Irvin N, Kennell J, Klaus M. “The adaptation of parents to the birth of an infant with a congenital malformation: a hypothetical model.“, Pediatrics. 1975 Nov;56(5):710-7. PMID: 1196728.

2) Simon Olshansky (1962). “Chronic Sorrow: A Response to Having a Mentally Defective Child

3)

4)

精神発達遅滞の子どもの親は、「子どもの絶え間ない要求と衰えることのない依存に苦しめられる。その悲しみや試練及び切望の瞬間は、自身の死、または子どもの死が訪れるまで続く」として、慢性的悲哀を主張した。そして、「この苦悩や絶望と関連して表れる悲しみは親の自然な反応であり、それを専門家があまり気付いておらず親に悲哀を乗り越えることを励まし、自然な感情を表すことを妨げている」と指摘している。このように慢性的悲哀説は、障害を受容することを強制せず、障害受容過程において何度でも訪れる危機によって、親の感情が揺れ動くことに肯定的な立場を取っている。

加藤千春,山口勝弘(2009年)山梨障害児教育学研究紀要「障害児の親の障害否認・受容に関する一研究」p.111

5)

このモデルで重要なのは、何年経っても保護者は「慢性的に」悲しみの感情を抱くということです。支援者がそれを理解しないと、保護者は悲しみの感情を表に出せなくなってしまうということです。

深谷はばたき特別支援学校「はばたきインクル支援だより No.14」令和元年11月1日

6)

家族が子どもの障害を肯定しているようでも,内面では障害を否定する心情が存在し,家族が障害を否定しているようでも,それは障害を認め受け入れようとする過程と考えるべきであろう。

古屋健,中田洋二郎(2018年)「発達障害の家族支援における『障害受容』―その概念の変遷を巡って―」応用心理学研究44巻2号 p.131-138

7)

子どもの障害を認めることが困難な家族においては,慢性的悲哀は子どもの障害の否認として専門家には受け止められる。しかし,(中略) それを自然な反応として考えるべきである。

中田洋二郎(1995年)「親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀」障害保健福祉研究情報システム(DINF)早稲田心理学年報第27号 p.83~92