自閉症スペクトラムと知的障害|混同される理由|見分け方
自閉症スペクトラムと知的障害(知的発達症)の関連性、混同されやすい理由、そして、その2つの見分け方を見ていきます。
関連性
両者とも精神障害の1種
知的障害と自閉症スペクトラムは、ともに精神障害の1種です。
併発という考え方
なので知的障害と自閉症スペクトラムは「併発する」という考え方です。
つまり、自閉症スペクトラムの人の中には
- 知的障害を「併発している」人
- 知的障害を「併発していない」人
に分けられます。例えば「知的障害を伴う自閉症スペクトラム」の人は、以前は「自閉症」と呼ばれていました。
このあたりは複雑で混乱してしまうポイントです。下記ページでも精神障害の分類について詳しく解説していますので、是非あわせてご覧ください。
混同されやすい理由
「自閉症スペクトラムだと知的障害なのかな?」と勘違いしやすい主な理由は下記です。
詳しく見ていきましょう。
【理由1】多くの人が併発しているから
大きな理由は、自閉症スペクトラムの多くの人が、知的障害を併発しているためです。
自閉症スペクトラムの合併症の内、最も多いものが知的障害なのです。
様々な併存症が知られていますが、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっているといわれています。特に知的能力障害(知的障害)が多く、その他、ADHD(注意欠如・多動症)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、抑うつ障害、学習障害(限局性学習症、LD)がしばしば併存します。
厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」
自閉症スペクトラムの操作的診断基準であるDSM-5でも、下記のように記載されています。
知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。
米国精神医学会 発行、日本精神神経学会 日本語版用語監修「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」2014年06月
併発している人の割合は?
現代の精神医学において、世界中で最も広く使用されている精神科のテキストを執筆したニューヨーク大学医学部精神科の教授であるベンジャミン・サドック博士は、「自閉症スペクトラムの、現在のDSM-5診断に対応する子供の約3分の1は、知的障害を示している」1)と述べています。
※:Kaplan & Sadock’s Comprehensive Textbook Of Psychiatry(カプラン&サドックの精神医学の包括的な教科書)
その他の先行研究では、下記のような報告があります。
- 2014年にスウェーデンで行われた研究では、??14,516人のうち5,689人と約40%の数値。参考:“The Familial Risk of Autism“
- Wikipediaでは、自閉スペクトラム症児の45~60%が、知的障害を併発しているとの記載。
- アメリカでは、知的障害のある人の約40%にも自閉スペクトラム症の特性があり、逆に自閉スペクトラム症のある人の約70%にも知的障害があるとも言われている。参考:Wikipedia “Intellectual disability“
【理由2】特徴が似ているから
ノースダコタ大学のアニタ・ペダーセン(Anita L. Pedersen)博士は「自閉スペクトラム症と知的障害の重複する臨床的特徴は診断上の混乱の可能性がある」2)と述べています。
特に、知的障害も自閉症スペクトラムも、言語コミュニケーションに影響が出るため、混同されがちです。中でも、幼児期の言語発達の遅れは、ともに最もみられる特徴です。
- ◆参考ページ◆
- 自閉症児の言葉|特徴|まとめ
- 知的障害の特徴|定義|4段階区分
【理由3】広汎性発達障害→自閉症スペクトラムへの統合
「自閉症スペクトラム」という概念は、わりと最近、一般普及してきました。
前述の「関連性」の項目でも記載しましたが、「自閉症スペクトラム」の概念が定義される前は、「広汎性発達障害」というカテゴリーが活用されており、知的障害の併発の有無で診断名が異なっていました。
- 知的障害を併発している人…「自閉症」
- 知的障害がない人…「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」
それが2013年に精神障害の操作的診断基準であるDSM-5で、「広汎性発達障害」がなくなり、自閉症の人も、高機能自閉症の人も、アスペルガー症候群の人も、みんな「自閉症スペクトラム」という診断名になるように統合されました。(統合された理由はこちら)
そのことで、診断名は同じ「自閉症スペクトラム」でも、知的障害を伴う人と、伴わない人が存在する形になりました。
診断名に区切りがなくなったことで、自閉症スペクトラムと知的障害の関連性が見えづらくなったことも、混同されがちになっている一因と考えられます。
見分けるポイント
自閉症スペクトラムと知的障害を見分ける重要なポイントは、知的障害だけの人には認められない「自閉症スペクトラムの中心的な特性」があるかどうかを考えることです。
自閉症スペクトラムの中心的な特性は「社会的コミュニケーションの欠陥」と「制限された反復行動」です。細や具体例は、下記ページにまとめています。
知的障害しか持っていない子/人は、「社会的コミュニケーション」の源である「共同注意」は定型発達児と同等に発達すると考えられていますので、その辺りが見分けるポイントになります。
共同注意がある、ないとはどのような雰囲気をさすのか、下記ページにまとめていますので、是非あわせてご覧ください。。
参考文献の引用
1)
Approximately one third of children meeting the current DSM-5 diagnosis of autism spectrum disorder, exhibit intellectual disability (ID).
“KAPLAN & SADOCK’S SYNOPSIS OF PSYCHIATRY Behavioral Sciences/Clinical Psychiatry" ELEVENTH EDITION Benjamin J. Sadock. Virginia A. Sadock. Pedro Ruiz (2014) p.1152
2)
Clinical characteristics of autism spectrum disorder (ASD) and intellectual disability (ID) overlap, creating potential for diagnostic confusion.
Pedersen, A.L., Pettygrove, S., Lu, Z. et al. “DSM Criteria that Best Differentiate Intellectual Disability from Autism Spectrum Disorder." Child Psychiatry Hum Dev 48, 537?545 (2017).
さいごに
今回は、教育機関や医療機関でも混同されがちな、自閉症スペクトラムと知的障害の関連性と見分け方をまとめてみました。
自閉症スペクトラムと知的障害は違う障害ではあるが、併発率が高く、似た特徴もあることから、混同されやすいことが分かりました。
気になる方は、発達の専門の外来を受診すると安心ですね。
- ◆発達外来の参考ページ◆
- 自閉症かも?2歳で【発達外来】に受診するのは早すぎる?【実例シリーズ】
- 自閉症スペクトラムは【血液検査】や【脳波】からすぐ診断できる?
- 自閉症児かどうか、臨床医の診断方法は?【実例シリーズ】息子の場合もご紹介
今回はこの辺で。読んで下さってありがとうございました!