【IQ】と【DIQ】違いと求め方|ビネーは従来のIQ、WISCはDIQ

IQ:従来のIQとDIQの違いと計算方法

子どものIQはいくつ?親としては気になりますよね。今回は、IQの求め方と種類を、田中ビネー知能検査ⅤとWISC-Ⅳを例に見ていきます。

IQ分類

知能検査の発行者は、テストを行って算出されるIQスコアがどの程度のものなのかを分かりやすくするために、ある程度の範囲で区切って「平均」「優れている」「軽度の障害または遅延」など独自のカテゴリ名で分類しています。

一般的には、IQが100前後で平均的、70以下であると知的障害と評価されます。

130以上極めて優秀
120~129優秀
110~119平均の上
90~109平均
80~89平均の下
70~79境界線級/ボーダーライン
70未満知的障害
明石書店出版「発達障害事典」(日本語版)(2011) Pasquale J. Accardo, Barbara Y. Whitman etc.

知的障害の定義や、IQが70以下の場合どの程度の生活水準能力なのか等の具体例などは、下記ページで詳しく説明しています。

IQは2種類存在する

IQには【従来のIQ】と【偏差IQ(DIQ)】の2種類があります。(IQと一言で言っても、広義にはその2種類を含めたものだったり、狭義ではどちらか一方を暗に示しているものもあります。)

そして、知能検査によっても、求められるIQは異なります。

例えば、田中ビネー知能検査Ⅴ(2~13歳)では【従来のIQ】、WISC-Ⅳ(ウェスクラー式知能検査全般)では【DIQ】が求められます。

なぜIQが2種類存在するのか、また、なぜ「従来の」と呼ばれるのかは、後述するIQの歴史の章を見るとよく分かります。

その説明の前に、まずはそれぞれの求め方と概要を見ていきましょう。

【従来のIQ】例:田中ビネー(2~13歳)

まず、田中ビネー知能検査Ⅴなどの検査を行うことで精神年齢を導き出します。どんな問題が何歳級の検査として設定されているかは、下記ページをご覧ください。

その精神年齢とその子の実際の年齢の比率が【従来のIQ】と呼ばれるものです。

POINT

精神年齢とは、何歳の人の平均と同じかを表している

計算方法

計算は月数同士で割り算をし、100を掛けて整数にします。

【従来のIQ】計算方法

精神年齢 ÷ 本人の年齢 × 100 = 知能指数(IQ

  • 例1)3歳6ヶ月の子の精神年齢が2歳5ヶ月だとしたら(MA 2:5, CA 3:6)
    • 29ヶ月(2歳5ヶ月) ÷ 42ヶ月(3歳6ヶ月) × 100 = IQ69
  • 例2)3歳6ヶ月の子の精神年齢が4歳0ヶ月だとしたら(MA 4:0, CA 3:6)
    • 48ヶ月(4歳0ヶ月) ÷ 42ヶ月(3歳6ヶ月) × 100 = IQ114

平均

「精神年齢」と「実際の年齢」の比率から求められる【従来のIQ】の平均は、IQ100ではありません

分かるのは、IQ100以上であれば、あまり心配しなくても大丈夫ということです。(後で詳しく説明していますが、もともと【従来のIQ】は、学習面に問題のある子を選別するためのテストに用いられた考え方であるためです。)

単純に「精神年齢(得点)」と「生活年齢」の比率から求めた「知能指数IQ」は、便宜的な目安、「100以上であれば、ほぼ年齢通りの発達」と理解すべきでしょう

マミーマイト幼児教室「マミーマイト教室の知能教育レポート:14」より引用

例えば、田中ビネー知能検査ⅤによるIQの平均(月齢別)は下記になります。2歳代では1ヶ月違うだけでも異なってきます。4歳以降は月数での差はあまりないため6ヶ月毎の抜粋にしましたが、月齢によってはIQの平均が118と高くなるのもポイントです。

年齢IQの平均年齢IQの平均
2歳0ヶ月1013歳0ヶ月113
2歳1ヶ月1033歳3ヶ月115
2歳2ヶ月1043歳6ヶ月116
2歳3ヶ月1064歳0ヶ月118
2歳4ヶ月1074歳6ヶ月119
2歳5ヶ月1085歳0ヶ月119
2歳6ヶ月1095歳6ヶ月119
2歳7ヶ月1106歳0ヶ月118
2歳8ヶ月1116歳6ヶ月118
2歳9ヶ月1127歳0ヶ月117
2歳10ヶ月1127歳6ヶ月116
2歳11ヶ月1138歳0ヶ月115
月数によるビネーIQの平均(一部抜粋)

つまり、小さい子が田中ビネー知能検査Ⅴで「IQ110」程度であった場合、わりと高い結果に感じますが、実はごく平均的とも言えるのです。

この理由は、子どもの発達が早いことや、検査の特徴が挙げられます。

これは幼児期における知的発達が急であることに加え、田中ビネー検査法に限らず、問題の難易度が年齢が上がる毎に高くなるタイプの知能検査法の特徴

マミーマイト幼児教室
POINT

「従来のIQ」だけでは、その子が同じ学年の子ども達の中で、程度の位置(順位のようなものにいるのかは読み取れない

【DIQ】例:WISC-Ⅳ

日本で特に児童期の発達状態を検査する際によく使用されているWISCでは、【DIQ】が求められます。

また、ビネー式の検査でも、最新の田中ビネー知能検査Ⅴの14歳以上では【DIQ】が求められるようになっており、13歳以下でもマニュアルに【従来のIQ】から【DIQ】を求めるための換算表が載っています。

【従来のIQ】との違い

DIQは【従来のIQ】と何が違うのでしょうか?

DIQの「D」とは、英語で「Deviation」、日本語では統計学的に「偏差」という意味です。「偏差」とはどのくらい中心からずれているか、というような意味です。

【従来のIQ】では「比」が、【DIQ】では「位置」が数値として求められるという違いになります。

偏差(へんさ、英: deviation)とは、統計学において、ある母集団に属する数値と、母集団の基準値(平均や中央値など)との差のこと

Wikipedia「偏差」より引用
POINT

【DIQ】では、従来のIQでは読み取れなかった、同年齢集団内でのその子の位置が読み取れる

計算方法

WISC【DIQ】の計算方法

偏差知能指数(DIQ)= 10015 × {(その子の点数-同年齢の平均点)÷ 同年齢の標準偏差}

参考:偏差値 = 50 + 10 × {(その子の点数-平均点)÷ 標準偏差}

統計学

【DIQ】を理解するには統計学の知識が必要とされます。正規分布に従ったものですが、実は皆さんもよくご存知の偏差値と同じ考え方です。(偏差値では、母集団が少ないと正しい正規分布にはなりません)

DIQ(偏差知能指数)

正規分布は統計学や自然科学、社会科学の様々な場面で複雑な現象を簡単に表すモデルとして用いられている。たとえば、実験における測定の誤差は正規分布に従って分布すると仮定され、不確かさの評価が計算されている。

Wikipedia「正規分布」より引用

平均

偏差値では、「偏差値50」というと平均と同じ点数だったということを意味しますよね。

その平均と同じというのが、【DIQ】では「IQ100」となります。

その平均からどのくらいずれているかという数値を求めるために、上記計算方法では【DIQ】では「100」、偏差値では「50」から加算(減算)しているのです。

標準偏差と順位

偏差値では、データのばらつきの指標となる標準偏差(σ)が「10」で正規分布の68?95?99.7則に従っています。上図と下記引用の通り、分布の割合が決まっていますので、偏差値であれば平均点に関わらず下記の情報が分かります。

  • 1,000人が受けた試験の場合
    • 偏差値80(平均点+3σ)…上から約0.15%の位置、つまりほぼトップ(ほぼ1位)
    • 偏差値70(平均点+2σ)…上から約2.5%の位置、つまりほぼ25位
    • 偏差値60(平均点+ σ)…上から約16%の位置、つまりほぼ160位
    • 偏差値50(平均点  )…上から50%の位置、つまりほぼ500位
    • 偏差値40(平均点- σ)…上から約84%の位置、つまりほぼ840位
    • 偏差値30(平均点-2σ)…上から約97.5%の位置、つまりほぼ975位
    • 偏差値20(平均点-3σ)…上から約99.85%の位置、つまり下から1~2番目(ほぼ1000位)

統計学における68?95?99.7則(英: 68?95?99.7 rule)とは、正規分布において、平均値を中心とした標準偏差の2倍、4倍、6倍の幅に入るデータの割合の簡略表現である。より正確には、68.27%、95.45%、 99.73%である。

Wikipedia「68?95?99.7則」より引用

【DIQ】では、WISC-Ⅳ(ウィスクラー式の知能検査)では「15」、田中ビネー知能検査Ⅴでは「16」となっています。

標準偏差とは

標準偏差とは、データのばらつきを表す統計学の概念です。例えば、1000個の数値が全て同じであれば標準偏差は「0」(ばらつきがない)になります。平均点付近に集中していれば標準偏差が小さく、平均点から広がっている(ばらつきがある)ほど標準偏差が大きくなります。

偏差値では、模擬試験を受けた場合、受けた人数や平均点、場合によっては上位者の成績表などが受験者に提供されますが、知能検査ではそのような情報は提供されず、数値とその子の情報だけ報告されます。

なので、【DIQ】であれば、その数値だけで同年齢集団内での位置がざっくりと分かるため、現在主流のIQとなっています。

偏差値と同じように標準偏差で区切ると、各知能検査で渡されたIQによる大体の位置づけは、下記のようになります。

  • WISC-Ⅳ(同年齢集団 1,000人中と仮定)
    • IQ145(平均IQ100+3σ)…上から約0.15%の位置、つまりほぼ1位
    • IQ130(平均IQ100+2σ)…上から約2.5%の位置、つまりほぼ25位
    • IQ115(平均IQ100+ σ)…上から約16%の位置、つまりほぼ160位
    • IQ100(平均   )…上から50%の位置、つまりほぼ500位
    • IQ 85(平均IQ100- σ)…上から約84%の位置、つまりほぼ840位
    • IQ 70(平均IQ100-2σ)…上から約97.5%の位置、つまりほぼ975位
    • IQ 55(平均IQ100-3σ)…上から約99.85%の位置、つまり下から1、2番目
  • 田中ビネー知能検査Ⅴ(同年齢集団 1,000人中と仮定)
    • IQ148(平均IQ100+3σ)…上から約0.15%の位置、つまりほぼ1位
    • IQ132(平均IQ100+2σ)…上から約2.5%の位置、つまりほぼ25位
    • IQ116(平均IQ100+ σ)…上から約16%の位置、つまりほぼ160位
    • IQ100(平均   )…上から50%の位置、つまりほぼ500位
    • IQ 84(平均IQ100- σ)…上から約84%の位置、つまりほぼ840位
    • IQ 68(平均IQ100-2σ)…上から約97.5%の位置、つまりほぼ975位
    • IQ 52(平均IQ100-3σ)…上から約99.85%の位置、つまり下から1、2番目
  • 【DIQ】は、何人中の何番目位という考え方なので、母集団の多さによって順位は変動する
  • DIQ130以上は天才的なイメージ(天才国際団体MENSAに加入する条件がDIQ130以上)
  • あくまで統計学上の数値なので、実際に自分の周りに地域の100人の子を集めてもDIQ130の天才児が2人はいるとはならない、むしろいない事の方が多い(しかし、東大生100人なら、無作為に集めてもDIQ130以上は2人以上いそう)
  • WISC-Ⅳで測定できるDIQの最高は、約160と言われている
  • 知能テストには標準偏差が「24」のキャッテルCFIT(7歳3ヶ月以上)などもあり、その場合、「WISC-ⅣでのDIQ130」→148、「 〃 145」→172と、数値が大きくなる。そのため、メディアなどで天才をアピールする際には、そのような数字が採択されている可能性が高い

ちなみに今年受けたの息子のWISC-Ⅳによる全検査がDIQ48だったので、息子は同年齢集団の中では99.73%の範囲外の位置と分かります…。マイナス方向に…。

WISC-Ⅳ検査結果の読み取り方については、下記ページで詳しく説明していますので、是非あわせてご覧ください。

POINT

【従来のIQ】と【DIQ】は同じくらいの数値ではあるが、性質が異なる。そのため、比較するのはふさわしくない

【従来のIQ】と【DIQ】が出来るまで

IQの誕生

IQという言葉は、知能指数を意味するドイツ語 “Intelligenz Quotient" の略語です。

ウィリアム・シュルテン博士
画像はWikipediaより

1912年に児童心理学分野のパイオニアであるドイツの心理学者ウィリアム・シュテルン(William Stern)博士の本ではじめて提唱されました。

1905年に世界で初めて開発された知能検査「ビネー・サイモンテスト」では、学習面に遅れのある子を選別するために精神年齢を求めることは出来ていました

しかし、他の子ども達との差を表すような標準化された方法は確立されていませんでした。

そこで7年後の1912年にブレスラウ大学のシュルテン教授が、今では当たり前に感じる「精神年齢」を「実際の年」で割って比率を求めるという公式を定義しました。

その後、「ビネー・サイモンテスト」を「スタンフォード・ビネー」へ標準化したルイス・ターマン(Lewis Terman)教授がその比率に100を掛けて整数にする方法を確立させました。

これが【従来のIQ】の誕生の流れです。

IQに反対した博士が【DIQ】を開発した

ビネーの知能検査は、1937年にスタンフォード・ビネーとして標準化され世界に広く普及しました。

デビッドウェクスラー博士
画像はWikipediaより

しかし、アメリカで最大規模の病院ベルビュー・ホスピタル・センターの主任心理学者であったウェクスラー博士は、その検査で求められる単一なIQについて批判しました。

ウェクスラー博士は来のIQを廃止、かつ、知的行動に深く関与していると考えられる知的能力以外の要因について考慮された知能検査を開発し、そこで【DIQ】を開発・導入したのです。1939年のことです。

ウェクスラー博士はそこからさらに10年間研究を重ね、1949年に子供向けの知能検査を開発したのですが、それが現在日本でも特に児童期でとてもよく使用されているWISCなのです。

POINT

ビネー式の知能検査で求められるIQが単一すぎる、と批判をした博士によって開発されたのがウェクスラー知能検査(WISC等)であり、その検査で求められるIQは【DIQ】である

さいごに

今回はIQについて詳しく見てきました。

一言にIQいくつといっても、検査やどちらのIQを意味しているのかで数値が変わることが分かりました。

今回はこの辺で。最後まで読んで下さって、ありがとうございました!